04


「もう! いい加減に起きなさいよ!」

朝ごはん食べる時間なくなっちゃうわよ!?

突如聞こえた大声に、リサは慌てて飛び起きた。
ぱちぱちと瞬きを繰り返して、ふと首を傾げる。

あれ、ここ何処だっけ?――と。

「リサ?」

呼び声にハッとしてそちらを向けば、腰に手を当ててこちらを見下ろす顰め面の親友とご対面した。

「まだ寝惚けてるの? 早く用意して! 朝ごはん逃したらリサの所為なんですからね!」
「、はー、まいおに……?」

どうして。
うそ。
ほんとうに?

呆然と呟けば、顰め面だったハーマイオニーが今度は呆れた表情で溜息を零した。

「何を言ってるのか知りませんけど、もうとっくに起きる時間は過ぎてるのよ」

大体リサは寝過ぎなのよ。私より早く寝るくせに、いつだって私より起きるのが遅いんだから。
ブツブツと不満を零しながら背を向けたハーマイオニーの栗色の髪が揺れる。呆然と遠ざかる背中を見つめていたリサは、我に返ってベッドから飛び降りた。

「ハーマイオニー!!」
「きゃあっ!」

後ろから飛びかかって抱き付いたリサに、衝撃に耐えきれなかったハーマイオニーが悲鳴を上げて崩れ落ちる。

「もう! まだ寝惚けてるの!?」
「ハーマイオニー! 会いたかった!!」
「は?」

リサ?
貴方、何言ってるの?
まだ寝惚けてるの?
それとも、具合が悪いの?

訝しげな顔が探るように見つめてくるが、それすらも懐かしい。
リサ?問いかけるハーマイオニーを無視してその頬へと手を伸ばす。
頬、髪、肩、腕、手。
ペタペタとその存在を確かめるように何度も触れるリサに、困惑の色を浮かべたハーマイオニーはされるがままだ。

「リサ? 本当にどうしたの?」
「ハーマイオニー、会いたかった……」
「昨日も会ったじゃない」

何言ってるのよ。まだ寝惚けてるのね?
呆れた顔のハーマイオニーに抱きつけば、まったくどんな夢を見たのかしら、などと言いながらも抱きしめ返してくれる。

温かい。
鼻の奥がツンとするのを感じながら、涙を滲ませたリサはハーマイオニーを抱きしめる腕に力を篭めた。

「リサ、ちょっと痛い……」
「ハーマイオニー、ハーマイオニー」
「なぁに?」
「、会いた、かった……っ、」
「………どんな夢を見たの?」

涙声に気付いたのだろう。ハーマイオニーの手がそっとリサの頭に触れた。
ぎこちなく撫でてくれる手に縋るように更に強くしがみついて、リサは震える声で言葉を紡いだ。

「会えなく、なった」

「どこにも、いなくて」

「ハーマイオニーも、ハリーも、ロンも……だれも、いなくて」

「それで――、」

言葉を切ったリサにハーマイオニーが首を傾げて呼びかける。
けれど、その声はリサの耳には入ってこなかった。

あれ?
何だっけ?

リサの頭の中には、ひたすらに疑問符だけが浮かんでいたからだ。

「リサ?」
「……なん、だっけ……?」
「何が?」
「、分からない」

思い出せない。呟いたリサにハーマイオニーは益々首を傾げた。

思い出せない。
あれ、どうして?

リサは混乱していた。

ハーマイオニーに会えなくて、
ハリーにも会えなくて、
ロンにも会えなくて。

すごく怖かったのを覚えている。
怖くて、頼れる人なんて誰もいなくて、それで――。

それで?どうしたんだっけ?

どれだけ必死に考えても思い出せない。
怖い夢だったはずなのに、何故だろうか。思い出せない。

「忘れちゃったなら、それで良いじゃない。怖い夢なんてさっさと忘れた方が良いわよ」
「う、ん……」

怖い夢。そうだ、その通りだ。
ハーマイオニーがいなくて、
ハリーがいなくて、
ロンがいなくて。
頼れる人なんて誰もいなくて、怖くて。


ずっと、たった独りで――



違う。

違う。
違う違う違う。

独りじゃなかった。
だって、いつだって彼らが傍にいてくれた。


――”彼ら”って、誰だっけ?


「リサ?」
「思い、出せない……」
「え?」

目の前にいるハーマイオニーにしがみ付いて、リサは強く目を閉じた。

思い出せない。
見えない。

”彼ら”の姿が、見えない。

「ど、しよう」
「リサ、本当に大丈夫? 医務室に行く?」
「ハーマイオニー、思い出せない……思い出せないよ………」
「何のこと?」

困惑を露にするハーマイオニーの手を強く握りしめ、リサは何度も何度も頭を振った。

「ずっと、傍にいてくれたはずなのに……思い出せない」
「リサ、」
「なんで? だってずっと一緒だったのに……一緒だったはずなのに――っ、」

思い出せない。分からない。
どんなに強く目をつむっても、”彼ら”の姿はほんの少しも見えない。



「思い出したいの?」



静かな声にリサは顔を上げた。

「思い出したいの?」
「、うん」
「どうして?」
「え?」
「だって、私たちの所に帰って来たんじゃない」

伸びてきた手が頬に触れる。
さっきまでの温かさが嘘のようだと思った。
頬に触れたハーマイオニーの手は、まるで氷のように冷たかった。

「ハー、マイオニ……?」
「やっと帰って来れたのよ? もうあっちの人達なんてどうだって良いでしょう?」
「、」
「私たちがいるじゃない。ほら、朝食に行きましょう? ハリーもロンも待ってるわよ」
「で、も……だって、」
「あの人たちのことなんか、忘れちゃえば良いのよ」

これは、誰?
リサは呆然とハーマイオニーを見つめた。

「どんなに気の良い人たちだって、所詮海賊でしょう? 野蛮で、最低な人間よ」
「そ、そんなこと……!」
「どうして? だって、そうでしょう? 人を殺すんでしょう?」
「それは、」

答えに詰まるリサに微笑んでハーマイオニーは立ち上がった。

「さぁ、行きましょう? 皆が待ってるわよ」

差し伸べられた手をリサはジッと見つめた。
何故だろうか。彼女は親友であるはずなのに。

その手を取るのが、怖いだなんて。