木々がざわめく。
木々の隙間を風が通り抜け、時折何かの鳴き声のような音を上げてはリサの服をはためかせた。
人の声は聞こえない。町からさほど離れていないというのに、まるで自分がいるこの場所だけが切り取られてしまったようだと思った。
孤独。誰もいない。ひとりぼっち。恐怖を煽るようにまた木々がざわめいた。
こわい。誰もいない。たすけて。誰もこない。
助けを求めて口を開くも、その言葉は喉の奥に張り付いて出てこない。代わりに溢れ出る涙で世界は揺れ、何も見えなくなった。
戻れないのだろうか。ひとりぼっちで生きていかなければならないのだろうか。誰もいないこの世界で、たった一人で――?
” ”
とてつもない恐怖にギュッと目を瞑ったその時、不意に脳裏を掠めた言葉にリサは目を見開いた。
声はどんどん大きくなっていく。ドクン、ドクン。まるで耳のすぐ傍に心臓があるようだ。
拳を強く握り、大きく息を吸い込むと自然と気持ちが落ち着くのが分かった。
パキリ。
背後で木の枝を踏みしめる音が上がった。誰かなんて、振り返らなくても分かる。リサはゆっくりと瞬きをして徐に振り返った。
「………」
「………」
顰め面のマルコが片眉を上げてこちらを見下ろしている。無言のまま、手を差し伸べることも言葉を発することもしない彼は、リサが一人にしてと言えばあっさりもと来た道を戻ってしまうのだろう。マルコという人間はそういう男だ。
けど、来てくれた。
「わ、たし、」
「………」
「っ、ひとり、じゃない、よね……?」
縋るように見つめる先のマルコは、相変わらず眠そうな目でこちらを見下ろしていて何を考えているのか分からない。引き結ばれた唇が開くのを待っていると、突然マルコがリサに背を向けた。そのまま歩き始めたマルコに何も言えずに立ち尽くしていると、数歩先で立ち止まったマルコが振り返らないままに口を開く。
「何してんだ、とっとと帰るぞい」
「――っ、うん……!!」
溢れ出る涙を拭い、リサは駆け出した。
スタスタと先を行くマルコに追い付きシャツの裾をギュッと掴むと、前を向いたままだったマルコの視線がチラリとリサを見下ろす。けれど何も言わずに再び前へと視線を戻したマルコに、リサは緩みそうになる口元を唇を引き結ぶことで隠した。
”お前の居場所が無くなっちまったら、そん時はここに帰ってくりゃあ良い”
”お前の家はここなんだからよい”
いつか言われた言葉が再び甦る。
独りじゃない。独りなんかじゃない。
何も知らない世界に放り出されて、そこで彼らに出会った。海賊のくせに優しくて、温かくて、いつだって傍にいてくれる。
元の世界に戻れるかどうかなんて分からない。もしかしたら戻れないかもしれない。不安は消えない。恐怖に怯えて泣く夜だってある。けど、確実じゃない。彼らと共に航海しながら探せばいい。いつか元の世界に戻れれば良い。元の世界にいる親友たちに会う事が出来ればそれで良い。どんなに歳を重ねたとしても、彼らならきっと一目で気付いてくれるだろうから。
「……ちったァ成長したじゃねぇか」
「うるさいバカ」
「あァん?」
大きな手がリサの頭を鷲掴む。直後に襲いくるであろう痛みに身構えたリサだったが、いつまで経っても痛みがくることはなかった。
「……?」
おそるおそる目を開けて視線を上げれば、無表情でこちらを見下ろすマルコと目が合う。
「………」
「………なに?」
「………別に」
「?」
首を傾げたリサの頭をペチリと叩き、マルコは再び歩き出す。
その口元が僅かに笑んでいたのをリサは知らない。