「ころして」
その言葉は、リサが言うべき言葉じゃない。
その言葉は、私が言うべきだった。
その言葉は、全てを狂わせた私が言うべきだった。
私が、消えるべきだった。
こんな最低な私を好きだと言ってくれることが嬉しくて、
こんな最低な私を嫌いだと想われていることが悲しい。
当然のことなのに。嫌われて当然なのに。
どこまで身勝手なんだろうと思ったらまた涙が溢れた。
謝罪の言葉を口にする資格すらない私は、一体何を言ったら良いのだろう。
償うことすら望まれない私は、もう消えるしかないじゃないか。
こうして縋り付いたリサの服の下には、私の所為で負った傷痕が沢山あるのだろう。
「俺は、お前を手にかけることは出来ねぇ」
したくもねぇ。
言い切ったマルコが近付いてきて、私が縋りついたままのリサの傍らに立った。
「俺が消える」
「、」
「――けど、そうするとまたお前が傷付くんだろい」
傷付けたいわけじゃない。マルコはそう言った。
これ以上傷を負わせたいわけがない。私だってそうだ。
リサは優しいから、きっと私が消えてもマルコが消えても傷付く。悲しいって泣いてくれる。
どう転んだって傷付くのなら、私たちが取るべき道は一つだ。
「殴って」
「え?」
振り向いたリサの手をそっと握って、私の頬に当てた。
「殴って、いっぱい」
「何言って、」
「赦さなくていい。無理して好きでいなくてもいい」
それだけのことを、私たちはしてしまったから。
「でも、傷は残さないで」
私とマルコが傷付いたら、リサも傷付くから。
「お前、言ってること滅茶苦茶だよい」
苦笑したマルコが、けどそれが良いと笑う。
「でも、私は――」
「つべこべ言ってねぇで、とっとと殴ってやれよ」
背後から聞こえた声に振り返れば、いつからそこにいたのかドクターが立っていた。
その傍らにはイゾウ君も、サッチも、エースもいる。
「悪ィ、聞いちまった」
バツが悪そうに謝るエースに、嫌われたかもしれないと恐怖して、そんな自分に呆れた。
「ごめんね、嫌な奴で」
エースは何も言わずにテンガロンハットを目深に被った。
無言の答えに胸が痛んだけど、泣いてる場合じゃない。
「いいの、今度は私が頑張るから」
好きになってもらえるようになる。
その為には、私は私自身を好きにならなくちゃ。
好きだと思える自分にならなきゃならない。
「思う存分殴ったれ。あぁ、ついでに俺の分も一発足しといてくれ」
「俺らの分もな」
笑うサッチたちを困ったように見たリサは、私とマルコを交互に見て、自分の拳を見下ろした。
「………痛いよ」
「だろうな」
「覚悟は出来てます」
潔く甲板に正座すれば、隣にマルコも並んだ。
「リサー! 俺らの分も足しとけよ!!」
「人数分足したらスゲェことになっちまうな!」
「殴んのも一苦労だ!」
あちこちからひょっこり顔を出した皆が笑いながら手を振ってくる。
え、全員分……?と青褪める私の横で、マルコも口元を引き攣らせているのが見えた。
「グラララ! 面白そうなことやってるじゃねぇか」
「オヤジ!」
ドクターたちの後ろから出てきたオヤジは、楽しげに笑いながら私たちを見下ろしている。
こんなにも最低な私たちなのに、私たちを見るオヤジの目はちっとも変わってない。いつもどおり温かくて、優しくて、涙が滲んだ。
「きっちりケジメつけて、また最初からやり直せばいい」
いくらだってやり直せる。オヤジはそう言ってまた笑った。
「俺たちは、家族なんだからな」
あぁ、もう。
鼻を啜って隣を見れば、マルコも苦笑しながら肩を竦めた。
「――分かった」
リサの言葉に居住いを正して、深呼吸を一つ。
そして、リサは拳を振り上げた。