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「お前の研究をしてると言ったな」

地下へと向かうエレベーターの中、マルコが静かに口を開いた。

「どういう意味だ」

こちらを見ないままの問いに、リサは僅かに眉根を寄せて唇を噛み締めた。
ポン、と頭に何かが乗せられる。サッチの手だった。見上げればサッチの気遣うような顔がそこにある。

「………私も実験体なの」

誰かが息を呑んだ。

「昔は私だけを使って実験が行われてたけど、第一人者だった研究員が死んで……他の実験体を集めるようになったわ。あの研究の適合者は私だけだから、第一人者がいない状態で実験を続けて私を死なせるわけにはいかなかったの」
「第一人者が死んだ理由は?」
「私が殺した」

エレベーター内がシンと静まり返る。

「適合者になる条件は?」
「詳しくは知らない。私はその為だけに作られたんだって聞かされたわ」
「作られた、って……」
「具体的にどんなことをしたのかなんて知らない。ただ、アイツらはあの研究に適合するべき人間を作り出したの。それが私」

下り続けていたエレベーターがゆっくりと止まった。
直後にポン、と再び軽快な音が響き扉が開くと、そこは真っ白な壁があるだけの一本道だった。
数十メートル先に飾り気のない扉が見えるだけの一本道。
何故か分からないが、まるで死刑台へと続く道のように思えてならなかった。

先頭に立って歩きだしたリサは電子ロックに暗証番号を打ち込んで扉を開け、更に奥へと進んで行く。

「監視カメラか……」
「向こうには俺たちが来たことは丸分かりってわけかい」
「望むところだ……!」

薄暗い休憩室のような場所を通り過ぎ、先にある再び扉をくぐり抜けるとマルコ達はその光景に思わず足を止めた。
壁一面に取り付けられた円形の水槽のようなそれは、けれど水槽とは確実に異なっている。培養液の中では人間が膝を抱えており、頭や腕、足など全身にチューブのようなものが取り付けられていた。

「何だよ、これ……」
「胸クソ悪ィ……!」
「……これが、実験体の成れの果てかい」
「ジュノ……無事だろうな………」

一つ一つ培養液の中の人物を確認し、クルー達はホッと安堵の息を漏らした。どうやらこの中には家族はいないようだ。

「ここの奴らは何処だ?」
「もっと奥だと思う……最近はここまで入ってなかったから……」

辺りを見回しながら答えるリサの声には先程までと違い、怯えの色が滲んでいる。
大丈夫だと宥めるようにサッチの大きな手がリサの肩に乗せられた。

「とにかくアイツを見つけねぇとな」
「あぁ。――お前ら! 油断すんじゃねぇぞい!」
「「「おぉ!!」」」

それぞれが武器を手にし、警戒しながら探索を始める。
リサは更に奥へと続く扉へ向かって歩きだした。サッチ、マルコがそれに続く。

「大丈夫か?」
「、へいき」

青褪めるリサを気遣うサッチに、マルコは内心で舌を打ったが口にする事はしなかった。
まずは家族を取り戻すところからだ。
リサの口ぶりでは、この研究所の奴らにとってリサは貴重な存在らしい。
ならば、いざとなればリサを人質にすれば良い。

必ず助けてみせる。

グッと拳を握り締めたのと、リサが扉を開けたのは同時だった。




「やぁ、ようこそ我が研究所へ」

扉の向こうの真っ白な部屋には、研究所の所員たちが揃っていた。
中央に立つ男はリサたちを歓迎するかのようにニコニコと微笑みながら両腕を広げてリサたちを迎え入れた。

「さすがだよ、リサ。白ひげ海賊団のクルーを連れて来てくれるとはね」
「…………」
「よくやってくれた。おかげで我々の研究も遂に完成を――」
「聞きたいことがある」

男の言葉を遮りリサが静かに口を開く。静かに響いたその声は僅かに震えていた。

「キキョウとアイリスは……本当に病気だったの?」

男の片眉がぴくりと跳ねた。

「アンタからもらってた薬……毒だって聞いた」
「信じたのかね?」
「分からない……どっちが正しいのか、分からない……」
「リサ、」

サッチの気遣わしげな声を無視してリサは男を睨み付けた。

「答えて!!」
「――やれやれ、参ったよ」

大きな溜息を零して男は自身の目を手で覆った。
嘆いているようにも見えるが、その口元が弧を描いていることに気付いてしまえば全く別のものに見えてくる。

「……うそ、だったの」
「…………」
「毒を、飲ませてたの……」

男は答えない。

「――どうして……!!!」

堪え切れずにリサが叫び声を上げた途端、男の哄笑が響いた。

どうして!
何でそんなこと!

ヒステリックに叫ぶリサの声は男の嗤い声によってことごとく掻き消されてしまう。
一頻り声を上げて笑った男は、くつくつと喉を鳴らしながら肩を震わせた。

「どうして? 分かりきった事じゃないか――君が、ご両親を殺したからだよ」
「、」
「何……?」

マルコたちの視線が唇を噛み締めたリサへと集まる。

「どういう事だ?」
「おや、聞いていないのかね? この研究の第一人者だった研究員は、そこにいるリサの実の両親なのだよ」

 ――第一人者が死んだ理由は?

 ――私が殺した

ほんの十数分前のやり取りが甦った。

「じゃあ、自分の親を……」
「彼女は自分の家族をその手にかけた。白ひげ海賊団は一つの家族であると聞いたことがあるが……親を手にかけるような者にでもその手を差し伸べるのかね?」

男の問いに沈黙が答える。
背後に立つクルー達の視線を背中に受けながら、リサは拳を握り締めた。

「アイツらを親だなんて思ったことはない。私は、私の大切なものが護れればそれで良い」
「ならば尚のこと、こちらにつくべきだと思うがね?」
「あの子たちはちゃんとした医者に診てもらってる。あの医者はアンタ達みたいに生命を玩具にするような人間じゃない」
「ふむ……それは結構なことだ。だが、しかし――」

男が半歩横にずれる。
男に倣うように研究員たちが右側へと身を移すと、彼らによって隠れていた室内が露になった。
一面がガラスで張られた壁の向こうには、リサにとっては見慣れたベッドがぽつんと存在している。

第一人者であった研究社が死んで以来、誰もそこに横たわることはなかった。
けれど現在、真っ白なベッドには一人の男が横たわっている。
大の字に開かれた両手足はしっかりと拘束されており、男の口には猿轡が噛ませられている。

「ジュノ!!」

マルコが叫んだ。

「さぁ、本題に入ろうか。白ひげ海賊団一番隊隊長、不死鳥マルコ――君の能力を頂戴したい」

男の静かな声が奇妙に響いた。