06


『白ひげ海賊団に疑われてる。ずっと見張られてるのよ、どうにかして』

電伝虫が繋がるなり聞こえて不機嫌な声に男は喉を鳴らした。電伝虫の目が更に細まり怒気を含んだものになっていく。

「さすがは白ひげ海賊団という所か。良いだろう、こちらで何とかする。君は何もしなくていい。そいつらの目の届くところに居続けるんだ」
『………くだらない研究はまだ終わらないのね』
「終わるさ。あぁ、終わるとも。あと少しだ。喜びたまえ、君の両親の悲願が達成する日は近い」
『私が喜ぶとでも? ――まぁ良いわ、今日中に何とかして。居座られて迷惑してるの』
「あぁ、承知した。健闘を祈っているよ」

通信がブツリと切れると、男は再び喉を鳴らす。次第に堪えきれなくなったそれは終には哄笑となって部屋に響き渡った。

「終わるとも。もう少しだ。この研究が終われば君は全ての柵から解放される」

す、と視線をずらした先にある一枚の手配書を見据え、男は口端を吊り上げた。

「もう少しだ。もう少しで完成する。我々の研究を馬鹿にした愚か者共の鼻を明かしてやるのだ」

『白ひげ海賊団 一番隊隊長 不死鳥マルコ』

手配書の人物は、その腕を炎へと変えながら不敵に笑っていた。





「まさか、本当にこんな時間から来るとは思いませんでした。時計を貸しましょうか?」

十一時を指す時計から視線を移してじろりと睨み付けたリサに、対するマルコは至って冷静に腕を組んで立っていた。

「いや、悪かったって。俺よりもコイツに任せる方がいいかなー、とか思って……善は急げって言うだろ?」
「私の善が同じ所にあるとは思えません。とても眠いです」
「一晩寝なくたって死にゃしねぇよい。とっとと話せ」

横柄な態度でソファに腰を下ろしたマルコにリサの目が細まる。どうやらそうとう敵対心を持ってしまったらしい、とサッチは内心で大きな溜息を零した。こんな心地悪い空気の中で鼾を掻いているエースに殺意すら覚えるが、起こしたところでどうにもなるまい。二人を落ち着かせようとそれぞれのグラスに酒を注げば、マルコはそれを一気に飲み干しておかわりを催促した。

「先程、サッチさんに話すべきことは話しました」
「同じ事を話してもらう」

溜息を零したリサが向かいに座るマルコを見る。互いにその目から相手の考えを読み取ろうとするが、とにも角にも話さないことには何も始まらない。リサが静かに口を開いた。

「昨日言ったことは嘘です。本当はあの人と何もしてません。突然寝られて腹が立ったので、受け取ったお金を返さずに彼を放置して帰りました」
「それで?」
「それだけです」
「そうかい、じゃあ俺の出す結論は一つだ」

新たに注がれた酒を飲み干したマルコはグラスをテーブルにタンと置いてリサを見据える。

「お前は敵だ」
「…………」
「お前はこの島で神隠しが起こる事を知っていた。知っていてジュノを一人置き去りにした。その結果、ジュノは神隠しに遭った。お前が直接関与していようがいまいが、そんな事ァどうだって良い。ジュノが神隠しに遭った原因がお前なら、お前は俺達の敵だ」
「……随分と、野蛮で強引な結論ですね」
「知らねェのかい、海賊なんてのはどいつも野蛮で強引な奴ばっかだ」

口端を上げ、その目に怪しい光を帯びたマルコにリサの唇がきゅっと引き結ばれる。サッチは慌ててマルコを止めに入った。

「ちょ、ちょっと待てって! そりゃな、確かにそういう事になっちまうけどよ――」
「私に言わせてもらえば、神隠しが起こるという噂を知りながら島にやって来た貴方達が悪いわ」

冷たい声がサッチの声を遮った。振り返れば、冷めた目でマルコを見つめるリサがいた。

「自分たちは無事だと思った? 自分たちだけは助かるとでも? 神隠しなんて起こるはずがないと? 貴方達がそうやって目先にあるかもしれない危険から目を逸らしてこの島に上陸したから、こうして神隠しに遭ったんでしょう? 自業自得だとは思わないのかしら? ――あぁ、野蛮で強引な海賊だものね、責任を他人に押し付ける事だってお手の物よね?」
「――いい度胸じゃねぇか」

ニヤリと笑いサッチを振り払ったマルコが立ち上がりリサの元へと歩み寄る。ソファに座るリサの胸倉を掴んで持ち上げれば、苦しさに顔を歪めたリサはそれでも懸命にマルコを睨み付けていた。

「貴方、たちは……気付いてないんでしょう、ね………」
「?」
「どういう意味だ?」

困惑の表情を浮かべたサッチにリサは薄く笑った。

「この島は、悪魔と亡霊が棲む島よ」
「悪魔と」
「亡霊?」

胡散臭そうな顔をするマルコと益々首を傾げたサッチに、リサは口元に笑みを湛えたままそっと目を閉じた。

「貴方達には、どうする事も出来ないわ……悪魔も、亡霊も……ヒトではないんだもの……」
「言ってる意味が――」

マルコの言葉を遮るようにして子電伝虫が鳴り響いた。舌打ちを零してリサを解放し、ポケットから取り出して受話器を外す。

「何だよい、いま大事な――」
「大変だマルコ!! 島の奴らが……っ、消えちまった!!!!」
「はァ!?」
「どういう事だよ!?」

子電伝虫に向かって声を荒らげるマルコとサッチから視線を逸らしたリサはソファに身体を沈める。窓の外に視線を向ければ、淡く光る真円が空に浮かんでいた。

「あぁ、今夜は満月だったの……」

自嘲じみた笑みを浮かべたリサは、そっと目を閉じて意識を手放した。