05


現れたのは、ホグワーツの玄関ホールだった。

「あ、あれ?姿現し出来ないようになっているんじゃ・・?」
「今日だけ解放すると言っていた。門から城まで大分歩くからな」
「そう、なんですか・・・」

先生に抱きしめられたままでいる事に気付いて慌てて離れた。先生は何も言わずに放してくれた。ホッとしなきゃいけないのに、寂しいと思ってしまった自分が嫌だ。気持ちを切り替える為に大きく息を吸って周りを見回した。何も変わっていない。懐かしいホグワーツに、ほんの少しだけ顔を緩めた。沢山の思い出がある。けれど、どれもこれも、思い出を探っていくと最終的に先生に辿り着いてしまう。

「広間に集まっているはずだ」

先生が歩き出す。ドレスローブだからマントがばさりと翻る事も無い。マントに覆われていない先生の背中は記憶の中のものと同じで、一瞬だけ何も着ていない先生の背中が甦って恥ずかしくなった。
あの背中に寄りかかる事など、もう無い。

「考えるな・・」

戒める為に小さく呟いて、先生の後を追った。
広間の中には人がいっぱいで、懐かしい顔ばかりだった。一際人が多い所に先生が歩いて行く。その先には魔法省大臣になったらしいキングズリーさんや、マクゴナガル先生達がいた。その中心にいたのは、ハリーだった。

「ルーシー!」
「ハリー!」

ハリーが私に気付いて駆け寄ってくる。久しぶりの親友に私も顔を綻ばせた。

「久しぶり!」
「会いたかったよ!元気だったかい?」

私を強く抱きしめながらハリーが笑う。懐かしい。まだ数ヶ月だというのに、こんなにも懐かしい。

「元気だったよ。ハリーは?大変そうだね、英雄様は」
「止めてくれよ」

嫌そうにハリーが呻く。本当に変わっていない。

「大丈夫だったかい?ハーマイオニーから聞いたんだ。ルーシーがタチの悪い男に言い寄られてるって。本当は僕も行きたかったんだけど・・・めんどくさいよ。暫くは行動が制限されるんだってさ。僕が何したって言うんだ?」

後ろの魔法省のお偉方達を見てハリーが肩を竦めた。キングズリーさんや先生達に混ざって、頭の固そうな人達が見えるがあれがそうなのだろう。

「ハリーは英雄だし、仕方ないっちゃ仕方ないけどね。私は大丈夫だよ。ハーマイオニー達が迎えに来てくれたし――」
「先生がビシッと言ってくれたからもう大丈夫よ」

いつの間にかやって来たハーマイオニーが言った。目がキラキラ輝いていた。

「凄かったんだから。『彼女は私の恋人だ』って!ビックリしちゃったわ!」
「ホントホント。スネイプもそんな事が出来るんだって事に驚いたね」

隣にいたロンが肩を竦めながら言った。一瞬だけハリーの顔に苦いものが走った気がしたけど、気付かなかったフリをした。

「もう大丈夫だよ。多分、諦めてくれたんじゃないかな」
「・・・そっか、なら良いんだけど・・」
「ハリーにも見せたかったぜ。言い寄られてるルーシーを。相手が悪くない顔の男だったから、余計に面白かったさ。『君と過ごす為に色々考えたんだよ。夜景の見えるホテルだって!』」

スティーブの真似をしてロンが言った。ハーマイオニーが顰め面になり、ハリーは笑っていた。

「そんな事言われたのかい?」
「しょっちゅうだよ」

肩を竦めた。今日までに言われた口説き文句の数々を教えてあげると、ロンは益々笑ってハーマイオニーは益々顰め面になった。ハリーは笑いたそうにしながらも、どうやらハーマイオニーの機嫌を損ねない為に苦笑するに留まっていた。

「彼、他にも沢山彼女がいるのよ。私にまで手を出そうとするんだから、そろそろ普通の女じゃ足りなくなったみたい」
「どうしてあんな人に女が付いていくのかしら」

ハーマイオニーが顰め面のままブツブツ言った。ハリーは私とロンと顔を見合わせて今度こそ吹き出した。

「あれ〜?ハーマイオニー、君、ロックハートにキャーキャー言ってなかったかい?」
「あ、あれは別に・・・そ、そう!ただの憧れっていうか・・・今は違うわよ!」
「慌てすぎだよ、ハーマイオニー」

こうして4人で笑い合うのは本当に久しぶりだ。ヴォルデモートを倒す為に旅に出た時も、こんな風に笑えたりしなかった。6年生の時が最後ではないだろうか。

「でも、ルーシーに会えて本当に良かったわ。これからも会いましょうね」

私は笑顔で頷いた。ハリーはまた魔法省のお偉方に呼ばれて嫌々ながらも行ってしまった。

「どうする?」
「パーティ、これって一応始まってるの?」
「正式に始まるのは4時からなのよ。まだこれからもやって来るはずよ」
「じゃあ、それまでに城の中でも散歩してこようかな。久しぶりだし」
「一緒に行く?」
「大丈夫だよ。ロンもハーマイオニーも、折角のクリスマスなんだから二人の時間を楽しまなきゃ」

一瞬で二人が真っ赤になった。

「もうっ、ルーシー!」
「あはは!また後でね!」

広間を出ると、階段へ向かった。学生時代毎日使った大理石の階段を一段一段上っていく。懐かしくて、顔が緩みっ放しだった。

「わぁ、懐かしい」

たった数ヶ月なのに、どうしてこんなに懐かしいのだろう。数ヶ月前の戦いでは、城を懐かしむ余裕なんて無かったからだろうか。

「・・・だめだめ。考えちゃ駄目」

軽く頭を振って歩き出す。ハーマイオニーに付き合って何度も通った図書館、ハリーのお見舞いで何度も通った医務室。防衛術の教室や、呪文学の教室。懐かしい。

「あ、マートルのトイレ」

一瞬入ろうかと思ったけど、止めた。何を言われるか分かったものではない。それに、秘密の部屋の入り口がここにあるのだ。あまり良い思い出は無い。
グリフィンドール寮の談話室の入り口。太った婦人は健在で、既にワインを飲んでベロベロだった。階段を下りて、天文台へと向かう。

「うわ、寒・・・」

天文台。ダンブルドア先生が亡くなった場所。先生が、殺したと見せかけた場所。先生と、寄り添って星を見上げた場所。

「・・・・・・戻ろ・・」

呟いて階段を下りる。思い出の教室や廊下を通って、私は玄関ホールへと戻って来た。ふと、地下室へ続く階段が目に入った。

「・・・・・・」

もし、この階段を下りて先生の部屋の前に行っても泣かずにいられたら・・・そしたら、少しだけ変われるかもしれない。少しだけ吹っ切れるかもしれない。
きゅ、と唇を噛み締め、ドクンドクンと煩い心臓を押さえつけるように胸に手を当てて、私はゆっくりと地下へ続く階段を下り始めた。