03


数ヶ月経って、部屋の窓からの景色が真っ白になった。私の住むアパートは古く、隙間風が何処からか入ってきては部屋を冷やした。アルバイトから帰って来て温かいココアを飲むのが日課となっていた。

「ふー、疲れた・・・」

相変わらずの多忙ぶりに、身体は確かに休息を求めていた。けれど、眠るのが怖かった。気を抜くと先生の言葉が甦って怖かった。


『君を想っていた』


何故そんな事を口にしたのかわからない。

「・・・うそつき・・」

信じられるはずも無かった。当然だ。先生を信用するなんて、出来ない。出来るはずが無い。信用して、裏切られるのが怖い。何もかもが怖い。思い出したくなんてない。

「・・・・・・はぁ・・」

溜息を零したその時、コツコツと窓を叩く音がして振り返った。梟がいた。

「あれ?」

誰だろう、と呟きながら梟を招き入れた。私がマグルとして暮らすつもりだという事をハーマイオニー達は知っている。現に、ハーマイオニーはマグルの郵便方法で手紙をくれるのだ。気遣いの出来る友人で助かる。ハリーも1度だけ手紙をくれた。当たり障りの無い内容だったけれど、本当は先生の事を言いたかったんじゃないだろうかと思っている。ロンは手紙の出し方を覚える気が無いのか覚えられないのか――きっと前者だろう――ハーマイオニーが手紙を出す時に一言二言書いてくれる。

「差出人・・・が、ない・・?」

魔法界からだという事は確かなのに、差出人がない。梟は手紙を置いて行ってしまった。暫く手紙を見つめ続けた私は、大きく息を吐いて封を開けた。


『ルーシー・カトレット様

お久しぶりですね。元気にしていますか?
Miss.グレンジャーから聞いているとは思いますが、今年度から校長となりました。
今年のクリスマス・イブにパーティを開きたいと思っています。
是非、貴方も来てくれると嬉しいです。
マグル界でマグルとして暮らしている貴方に手紙を送るのは迷いましたが、送る事にしました。
あれから誰とも会ってないそうですね?
皆、貴方と再会できる日を楽しみに待っていますよ。

良い返事を期待しています。

ミネルバ・マクゴナガル』



手紙をテーブルに置いて溜息をついた。まさかマクゴナガル先生からとは思わなかった。差出人を書かなかったのは読まずに捨てる事を考慮してなのだろう。
行けるはずが無い。だって、私は逃げたんだから。何て言ったら良いのかも分からない。逃げた理由を聞かれたら答える術を持っていない。

何より、ホグワーツには彼がいる。

会うなんて出来ない。無理だ。絶対に、無理だ。
もう一度溜息をついて私は壁に掛かったカレンダーを見た。クリスマスまであと一月。返事をするのは早い方が良いのだろう。けれど、断りの手紙を送る勇気すら持っていない。

何が勇気のグリフィンドール寮だ。私はただの臆病者だ。

手紙を引き出しにしまい込み、私はベッドへと向かった。




翌日、いつものようにアルバイトを終えた頃、私と一緒に上がった同僚のスティーブが信じられない事を口にした。

「俺と付き合わない?」

正直、意味が分からなかった。スティーブとは何度か一緒のシフトで働いた事があるけれど、特別親しい訳ではなかった。噂ではスティーブは極度のプレイボーイで、沢山のガールフレンドがいるらしい。まさか、その一人になれと言われるとは思わなかった。

「いや・・私は・・・」
「レイアに聞いたけど、付き合ってる奴いないんだろう?良いじゃないか」

レイアとは同僚で仲の良い友達だ。付き合っている人がいないからって、良い訳が無い。

「私、好きな人としか付き合わないから」

きっぱり言うと、スティーブが驚いたように言った。

「好きな奴がいんの?毎日朝から晩まで働いてるのに?」
「私の勝手でしょ。悪いけど、他の子にしてくれる?――遊びの付き合いは、嫌なの」

もう、利用されるのは嫌だ。振り回されるのは嫌だ。
逃げるように店を出て家に向かった私は、一つの決心をしていた。

断ろう。

欠席すると手紙を書こうと決めて家に向かった。けれど、ポストにハーマイオニーからの手紙を見つけてしまった。


『ルーシーへ

クリスマスパーティの話、きたでしょう?勿論、行くわよね?
私達、貴方に会いたいのよ。久しぶりなんだもの、来てくれるわよね?

会えるのを楽しみにしてるわ

ハーマイオニー』



手紙を開く前に書いて送ってしまわなかった事を後悔した。手紙を出した後なら、もう行かないと送ってしまったと書けたのに。命令にも似た内容の手紙を見て断るなんて、後が怖い。

「・・・はぁ・・・・・」

たっぷりと大きな溜息を吐き、それから一時間かけて、私はマクゴナガル先生宛に『行きます』と一言だけの手紙を書いたのだった。

スティーブのしつこさはギネス級だと思わざるを得なかった。
シフトが合うたびに付き合おうと言われ、仕事終わりには遊びに行こうと誘われた。勿論、全て断っている。その内、家までやって来そうで怖い。

あっという間に十一月が終わり、十二月になった。マグル界もクリスマス一色となり、街にはイルミネーションが溢れ、クリスマス特有の音楽が流れている。
十二月に入ってからスティーブのしつこさが度を増した。レイアの話によると、今年のクリスマスを一緒に過ごす事を狙っているらしい。

「なぁ、ルーシー」
「悪いけど、スティーブ」

いつものように軽い調子で誘ってくるスティーブの言葉を遮って言ってやった。

「私、今年のクリスマス・イブは友達と約束をしてるの。学生時代の先生や友人がパーティを開くから、そこに招待されてるの。もう行くって言ってしまったわ。だから――」
「じゃあ、俺も行っていい?」
「無理よ。遠いもの。それに、今回は内輪のパーティだから部外者は行けないわ」
「良いじゃないか、ルーシーの恋人って事なら部外者には――」
「私は貴方の恋人にはならないって言ってるでしょう。とにかく、無理だから。ごめんなさい」

強引に話を終えて逃げるように家に帰る。いい加減にして欲しい。そう言えば、クリスマスプレゼントはどうしようか。ハーマイオニー達にも何か贈ろう。誕生日は贈り損ねてしまったから、クリスマスくらいはちゃんとあげたい。

「はぁ・・・あー、もう・・・・やだ」

こんな日は長風呂に限る。いそいそとお風呂の準備を始めるのだった。