その後 01


それは仕事を終えたハリーが家に帰ってきた直後の事だった。
相変わらず仕事は忙しく、くたくたに疲れきっていたハリーは、温かい夕食を準備して待っていてくれた恋人のジニーを抱きしめたままソファに身を沈めた。心身共に疲れ果てたハリーの最大の癒やしは、昔から変わらない恋人の笑顔である。

「先にお風呂に入る?」
「うーん……ううん、ご飯が食べたい。お腹ペコペコだよ」
「すぐに支度するわ」

立ち上がりキッチンへと消える姿を見送り、伸びを一つ。本当に疲れた。せっかくジニーが泊まりに来てくれているというのに、今すぐ眠ってしまいたくて仕方がない。駄目だ。たまの泊まりなのだから、今日は存分にジニーを抱きしめると決めたのだ。

「そう言えば手紙が来てたわ」

恋人の美味しい食事にありつこうとしたその時、向かいの席についたジニーが一通の手紙を差し出してきた。差出人の名前がないそれに首を傾げ、中を見たのかと尋ねる。ジニーはすぐに首を振った。

「いくら恋人だからって、手紙を覗くなんてしないわよ」
「別に見たって良かったのに」

どうせ、見られて困るものなど何もないのだから。そう思って返した言葉はジニーには不満だったらしい。何故か顰め面になるジニーにどうしたのかと問えば、見たくないものだったら嫌だから見ないのだと素っ気なく返された。

「ハリーへの熱烈なラブレターなんか、見たくもないわ」
「きたって返事なんかしないよ」
「分かってる。気持ちの問題よ」

そういうものなのだろうか。ハリーは首を傾げながら封筒を開けた。確かに、ジニーへラブレターが送られてきたら嫌かもしれない。歯の浮くような口説き文句が並んでいたら――考えてハリーは溜息を落とした。ジニーを口説く輩は手紙など送ってはこないという事を知っていたからだ。つい先日、魔法省主催のパーティにジニーと共に出席した時の事を思い浮かべる。また漏れそうになる溜息を飲み込んで手紙を開くと、思いがけぬ人物からのものだった。

「リサだ!」
「まぁ! リサは何て?」
「ちょっと待って――前の家から引っ越したみたいだ。”良かったら遊びに来てください”だって!」

まさか招待が届くなんて。前の時は教えてもらえなかったものね、なんて笑うジニーに笑いながら頷きを返したその時、暖炉からエメラルドグリーンの炎が上がった。

「ハリー!」
「ロン? どうしたの?」
「リサから手紙が届いたんだ! 遊びに来てくれって!」
「僕らにも届いたよ。今読んでたところだ」

エメラルドグリーンの炎の中に映えるロンの赤毛に笑っていると、ジニーが自分の髪をいじりながら「私の時もあんな風に見えるのかしら」とぼやく。ハリーは気づかれないようにこっそり笑みを零した。

「ハーマイオニーと来週辺りに休みを取ろうって話してた所なんだ」
「いいね、僕もそうするよ。ジニーは? 休み取れそう?」
「もぎ取るわ」

たった一言、何とも逞しい返答である。クィディッチのプロチームともなれば、休みなどそう簡単に取れるとは思えないが、この逞しい恋人なら見事に有限実行してみせるのだろう。知り合った頃は控えめで大人しい少女だったのに、と昔に思いを馳せたハリーは、現在の逞しい恋人を見てくすりと笑みを零した。今の方がジニーらしくて好きだ。

「じゃあ来週に。もう返事は書いた?」
「ハーマイオニーが書くってさ。僕らは来週休めるようにキングズリーに直談判だ。二人同時に休ませてもらえると良いんだけど……」

僅かに不安を滲ませてロンが唸る。

「あら、そんなに心配する必要ないんじゃない?」

朗らかに笑ったのはジニーだ。妹の発言に首を傾げるロンが「どうして?」と尋ねると、ジニーはしたり顔で答えた。

「ロンだけが休みを取ればいいのよ。それで、ハリーはこう言うの。”元死喰い人の逃亡犯が大人しくしているか、様子を見てきます”――キングズリーならこれでオッケーよ」
「ジニー、君って奴は……」
「それでダメだったら、次の終戦記念パーティにスネイプが出席するように説得してきますって言えばいいわ。魔法省だってスネイプには出席してもらいたいと思ってるんでしょう? ハリーが”僕にしか説得できない”って言えば誰も文句を言えないわ。その通りだもの」
「僕に説得出来るとも思えないけどね」

何せ相手はあのスネイプだ。いくら親友の恋人となったからといって、それだけでハリーに対して優しくなるなどとは思えない。簡単にそう思えるほどの関係ではなかった。むしろ、いつか殺されてしまうのではないかとすら思ったほどだ。

「言うだけ言ってみるよ。キングズリーならきっと許してくれるさ」
「じゃあまた明日」

緑の炎と共にロンの顔が消える。楽しみだねと、ハリーはジニーと顔を見合わせて笑った。