13


クリスマス休暇が始まって1週間。私は任務に追われていた。けれど、どんな時でも頭の中を占めるのは彼女だった。漸く時間を作って本部へ行くと、階上から彼女の叫び声が聞こえた。

「私に近寄らないで!!!」
「それなら、食事を取れ!」

ブラックの怒声に、私は怒りで我を失いそうになった。

「他人の手を借りなければならない程に弱っているくせに何を言ってるんだ!?頼りたくないのなら――」
「出てって!!!」

彼女のこんな叫び声、聞きたくなかった。

「お前の顔なんか・・見たくも無い!!」
「ルーシー・・!」

ルーピンの慌てた声。どうせ、ブラックを庇っているのだろう。庇う相手が間違っている。何故、彼女が悪く見られなければならないのだ。彼女が被害者だというのに。

「消えて!!私の前から消えてよ!!!皆消えて!!」

限界、だと悟った。

「――何をしている」

階段の途中で呆然と立ち尽くしているポッター達を追い越し、私は彼女の元へ向かった。その間もずっと叫び続けていた彼女は私を見た瞬間に叫ぶのを止めた。

「せ、んせ・・・」

彼女の声が今にも泣きそうだと訴えていた。

「――カトレット、部屋に入れ」

大人しく部屋に戻ったのを確認し、扉を閉めた。こいつらに言ってやらなければ、気が済まなかった。

「何をしている?我輩が言った事を聞かなかったのか?トンクス、ブラック、Mrs.ウィーズリー。カトレットに近付くなと言ったはずだ・・!」

私の言葉に怒りを露にしたのはやはり、ブラックだった。

「アイツが食事を取らないからだ!スネイプ!何を隠している?俺の娘だぞ!!」
「くだらん。貴様はただ、カトレットを存在させただけに過ぎん。父親?父親らしい事を何1つしなかった男が何を言う」
「セブルス、それはシリウスの所為じゃないよ」

ルーピンが言った。
苛々した。

「ならば、訂正しよう。ブラック、貴様はレイアに何を言った?」
「何?」
「貴様はレイアに何を言った?ポッターの【秘密の守り人】になるという事を言ったか?」
「あぁ、言ったさ!それが何だって言うんだ!!」
「ならば、それをペティグリューに変更した事は伝えたか?」
「それは・・・」

言い淀むブラックを嘲るように私は鼻を鳴らした。

「そうだろうな。もし伝えていたのなら、レイアは生きていたろうし、カトレットはこんな風になっておらん」
「どういう事だい?」

ルーピンが私に詰め寄った。

「レイアが死んだのは・・・」
「レイアは自殺した」

それは、ブラック達には言わなかった事。誰にも、言わなかった事。顔色を失くし、嘘だと呟きながら何度も首を振るブラックが滑稽に見えた。

「じ、さつ・・・」
「レイアが・・?」
「詳しく聞きたいのなら教えてしんぜよう。レイアはブラックの裏切りとポッター達が死んだ事を知って心を病んだ。そしてカトレットが5歳の時に自ら首を吊って死んだ」
「嘘だ!!」
「嘘?アズカバンにいた貴様にそれが嘘だと何故分かる?言っておくが、それを見つけたのはカトレット自身だ」

フラつくブラックをルーピンとトンクスが支える。泣きそうな顔をしたブラックが、ほんの少しだけ彼女に似てるように見え、苛々した。

「自分の母親が首を吊っている姿を見たカトレットが貴様を憎んでも仕方あるまい?だから言ったのだ。ブラック、カトレットに近付くな、と。カトレットが平静を保てる訳が無い」
「どうして始めに言わなかったんだ?」

咎めるようにルーピンが言う。

「知らずに済むのなら、その方が良い、とのダンブルドアの判断だ。ブラックが心を病んでレイアと同じように自殺でもしたら、カトレットは完全に壊れる」
「ねぇ・・どうして私とモリーも近寄っちゃ駄目なの?」

トンクスが尋ねた。

「今の君はカトレットの母親と同じ頃の年齢だ。カトレットは母親の事でトラウマを持っている。君が近寄る事はそれを克服させるどころか、増長させるだけだ」
「じゃあ、モリーは・・・」

溜息をついた。

「言ったはずだ。レイアは自殺した、と。カトレットは自分が棄てられたのだと思っている。Mrs.ウィーズリーを見て辛くなるのは当然だ」
「すて、られた・・」
「自分を棄てて自殺したのだから、間違ってはいない。間違っているのは貴様らだ。ブラックもレイアも。間違った選択をしたからカトレットは今、あのような状態になっている」

誰も何も言わなくなったのを確認し、私は彼女の部屋の扉の取っ手に手をかけた。

「――お前達が勝手な行動を取った所為で、娘であるカトレットは全てを狂わされた」

幸せになるはずだった彼女
毎日咳き込み、血を吐く彼女
自らを傷つけ、母親の亡霊に怯える彼女

彼女自身は、ちっとも悪く無いというのに――

「・・・・・2度と、カトレットに近寄るな」

それが、第三者としての言葉だったのか、彼女を愛する男としての言葉だったのか――判断する術を私は持たなかった。




部屋に入ると、彼女はベッドに寄りかかり床に座り込んでいた。虚ろな瞳から涙が流れ、ベッドのシーツに小さな染みを作っていた。
私に気付いても、彼女は身動きしなかった。瞬きすらしなかった。

ただ、全てに絶望していた

歩み寄って抱きしめても、彼女は応える事も抵抗する事もしなかった。

「すまない・・・・」
「・・・・・・・・・消えたい・・・・」

その呟きは、私の心を深く抉った。頬を流れるその涙を拭ってやりたいのに、出来なかった。触れてはいけないもののように思えてならなかった。
かつて、人を傷付けたこの手が、こんなに綺麗な彼女の流す涙を拭う資格があるように思えなかった。

「・・・・・・・・共に・・」

逃げよう、と言ってやれない自分が憎かった。

「・・・共に、城に帰ろう・・・」

何も答える事の出来ない彼女が眠るまで抱きしめ続けた。漸く眠りについた彼女を抱き上げて城に戻ろうとした時、私はおそらく酷い顔をしていただろう。

彼女の閉じられた瞳からは、涙が流れ続けていたのだ。


夢の中でも、彼女は安らげないのだろうか