12


新しい学年が始まった。7年生になった彼女は、寮で生活する事が出来なくなっていた。医務室やミネルバ、私の部屋に泊まりながら、薬を飲んで何とか生活をしていた。
新しく魔法省からやって来たドローレス・アンブリッジはブラックの娘である彼女に良い感情を抱いていなかった。けれど、彼女が長くないのだという事を聞くと、何も言わなくなった。むしろ、早く死ねと言うように嗤っていた。

「ルーシー・・・」
「・・・せんせい・・わたし・・っ、」

咳き込む彼女に薬を与え、背中を擦りながら抱き寄せる。少しでも力を入れれば折れてしまいそうな程に痩せ細った身体を抱きしめる度に、苦しくなる。

生きていて欲しいのに、何もしてやれない
傍にいてやりたいのに、いてやれない
彼女の望む事を、何もしてやれない

「・・・・・・・・・・・死にたい・・」

その望みを叶えてやる事も出来ない私に、彼女はどんな感情を持っていたのだろう?

怒っていたのだろうか?
憎んでいたのだろうか?

それとも

私に対しても、諦めの感情を抱いていたのだろうか――?


ある日、ミネルバが私に言った。

「ルーシーの事、頼みましたよ、セブルス」

今更何を言っているのだろうか、と思った。頼まれたのは彼女が1年の頃だ。今になって何故――

「あの子と、そういう関係なんでしょう?」
「・・・・・・」
「昨夜、あの子が教えてくれましたよ」

クスクス笑うミネルバから顔を背けると、ミネルバは私の肩を軽く叩いて言った。

「あの子があんな風に笑ったのを見たのは初めてです。教師と生徒でそんな事を、と言いたい所ですが、瞳を瞑りましょう。私も・・・あの子が少しでも幸せな時間を過ごしてくれるのは嬉しいんですよ」

翌日の夜、泊まりに来たルーシーに取り敢えず文句を言っておいた。

「ミネルバに言ったらしいな?」
「怒りました?」
「クビにならなくて奇跡だ」
「せんせいがクビになったら困りますね。一緒にいれるのは嬉しいけど・・・・きっと、すぐにバイバイになっちゃうだろうから・・」

そんな言葉、聞きたくも無い。

彼女がいなくなるなんて、考えたくなかった。

「・・・・・・今年の休暇だが・・おそらく、また本部で過ごす事になると思う」
「・・・・・・・」

彼女が悲しげに顔を伏せた。

「どうしてもですか・・?」
「・・・・・・どうしてもだ」

カップをソーサーに戻しながら、私は言った。

「ルーシー、ミネルバにも言われたと思うが――」
「癇癪を起こすな、でしょ?」

唇を尖らせてそっぽを向く、子供らしいその仕草に安堵を覚えた私は、きっと彼女の為なら何でもしてしまうのだろう。彼女が本気で私に【何処か遠くへ逃げよう】と言えば、きっと頷くのだろう。

魔法界を捨て
全てを捨て

けれど、彼女はそれを望みはしない。どんなに辛くても、苦しくても。逃げたくても、彼女は私に【共に逃げよう】とは言わないのだ。自分を苦しめ、傷つけ、それでも、彼女は私に【共に逃げよう】とは言わないのだ。

「・・・休暇中、私はずっと任務に就く事になるだろう。本部に行く事も出来ないかもしれない。時間が出来たら会いに行く。それまでは――」
「でも私、あそこは嫌いです」

ハッキリと言う彼女に苦笑した。

「分かっている。だが・・・城に残っていてはお前はあそこに篭るだろう?」

あの部屋は、彼女の心も身体も蝕んでいく。あの部屋は、彼女の生命を縮めるものでしかないのだ。

「最近は使ってません。誰か他の人が使ってるみたい・・」

溜息をつき、ココアを飲み干してから彼女は私の隣に移動して来た。自分から擦り寄ってくれる彼女が愛しくて、頭を撫でた。表情には出さなかったが、内心では彼女が愛しくて堪らなかった。

「・・・・・・・・・・どうしても?」
「くどい」

きっぱり言ってやると、彼女は諦めたように溜息を漏らした。

「・・・・・・じゃあ、今日泊まっても良い?」
「昨日も泊まったではないか」
「一昨日は泊まってないじゃん」
「一昨日はミネルバの所に泊まったらしいな?」
「・・・・・・・・・・・ちぇ」

バツが悪そうな顔をする彼女に小さく息を吐き、指を振って羊皮紙と羽根ペンを呼び寄せて彼女に渡した。

「なぁに?」
「ミネルバに書いておけ」

途端に彼女が顔を輝かせる。

「本当!?」
「後で文句を言われるのは我輩なんだぞ」

私達の関係を知られては、余計に怒られるだろう。泊まる度にそういう事をしている訳では無いが、ただでさえ弱っている彼女を抱いている事は確かなのだから。

「ありがと、先生!だいすき!」
「・・・・全く以って嬉しくないがな」
「照れちゃって」
「しっかりと書いておけ。【今日はちゃんと自室で寝る】とな」
「わっ、うそ!冗談ですよぅ・・【今日は先生の所に泊まります】」

羊皮紙に書いている彼女を尻目に紅茶を飲む。

【照れちゃって】

当たっているから余計に悔しい。




クリスマス休暇の直前、私はもう1度彼女に言った。休暇中は本部に行けという事と、毎日は会いに行けないという事を。

「・・・・・・・・・どうしても・・私・・・あそこに戻るの・・・?」
「・・・・・すまない・・・」
「ここに残りたい・・学校にいたい・・・・・」
「・・・・・・それは駄目だ・・ルーシー、お前はあの部屋に篭るだろう?」
「・・・・・・・・・」
「ルーシー、【必要の部屋】はお前が必要とする物を出す。だが、それはお前にとって良い事では無い。克服したいのなら、行くべきでは無い」
「・・・・・・・・・」

答えず、唇を噛む彼女に苦々しい気持ちでいっぱいになる。

こんな事を言いたい訳では無いのに
本当は、ずっと傍にいてやりたいのに

「・・・・・・・会える時は会いに行く。食事は部屋の前に置くように言っておく。・・・・・・・我慢してくれ」

そんな事しか言えない私は、

彼女を苦しめる事しか言えない私は

きっと、地獄に堕ちるだろう