夏休みが始まって数日後。ウィーズリー家の子供達が本部へと移ってきた。グレンジャーも一緒だった。
「えっ!?ルーシーがここにいるの?」
厨房に呼ばれたウィーズリー達は、ルーピンから彼女がいると聞いて驚いていた。
「どうして?ルーシーが何で・・・」
「ルーシーはね、シリウスの娘なんだよ」
「「「え!!?」」」
ウィーズリー兄妹、グレンジャーが同時に声を上げた。それはそうだろう。彼女にブラックの面影は全くと言って良い程に無いのだから。
ブラックは、と言えば、何とも言えない、いっそ笑いがこみ上げてくるような表情だった。
「そ、それでルーシーは?」
「部屋に篭って出て来ないんだ」
「ルーシーは知ってたの?シリウスが父親だって・・」
「うん・・それは知ってたみたいだ。――そうなんだろう、セブルス?」
ルーピンが私に問うと、全員の視線が私に集まった。
「あぁ」
「どうしてスネイプ、先生が?」
「セブルスはね、ルーシーに薬を作ってくれてるんだ」
「薬?」
「ルーシー、どっか悪いの?」
「――あ、そう言えばアンジェリーナがそんなような事言ってたかも・・?」
口々に何かを言うウィーズリー兄弟。
「セブルス、ルーシーの容態はどうなんだい?」
「それも、教える必要は無い」
「無いはずは無い。セブルス、君やルーシーがどう考えていようと、シリウスが父親なら――」
「ブラックはただ、カトレットという存在を創っただけだ。父親らしい事を何1つしていない男を父と呼ぶ訳がない。カトレットはブラックと自分を無関係だと考えている。違えるつもりは無いそうだ」
「でも・・!」
「ルーピン。親友想いの君がブラックを庇いたいと想う気持ちはお察しするが、それが傲慢な考えだとは思わないのかね?」
言葉を失くし、俯いたルーピンを見て瞬きを1つしてから私は彼女の食事を運ぶ為に厨房を後にした。
「話は終わりだ。ウィーズリー。君達もカトレットに近寄るな。無理に部屋から出そうとする事も、しつこく扉を叩き続ける事も、カトレットは望まない。1人にしておけ」
「でも・・」
「分かったな?」
返事は無かったが、構わなかった。言うべき事は言った。彼女の想いは伝えた。
「セブルス」
食事の入ったトレイを手に厨房を去ろうとするとルーピンが私を呼び止めた。
「レイアが死んだのはルーシーが何歳の時だったんだ?」
「・・・・・5歳だと聞いている」
「その後、ルーシーはどうやって・・?」
「レイアの母――カトレットにとっての祖母と暮らしていた。カトレットが8歳の時に病気で亡くなったがな」
「じゃあ、その後は――」
「祖母の友人であるミネルバが保護者になると申し出た。だが、カトレットはミネルバに頼らず1人で暮らしていた」
「どうして・・・」
「どうして?」
笑いがこみ上げた。
貴様らはそんな事も分からないのか?
「カトレットがミネルバに心を許さなかったからだ」
簡単なのだ。彼女は、拒絶し続けた。ミネルバの厚意を信じる事が出来なかった。迷惑をかける事しか出来ない自分が嫌いで、だから、ミネルバも自分を嫌っているのだと思ってしまった。
レイアのように
信じる事を恐れていた。
信じて、裏切られる事を恐れていた。
だから、必要以上に近寄らないのだ。誰にも。
徹底した、自己防衛。
「だけど、あの子は・・・君には心を許している」
「何が言いたい」
「どうして君が?薬を作り続けて与えただけで?」
「――つまり」
ルーピンの言いたい事に気付いた私は鼻で嗤った。
「貴様は、我輩とカトレットが教師と生徒以上の関係であるとでも言いたいのか?」
誰かが息を呑んだ。
「あの時、あの子は真っ先に君に助けを求めた。防衛術の教室は3階で、君の部屋は地下だ。ミネルバの部屋の方が近かった。けれど、彼女は君の元へ向かった。君だって――」
「我輩は、校長とミネルバにカトレットに出来る限りの助けをしてやって欲しいと頼まれている。くだらない詮索をする暇があるのなら、もっと何かの役に立つ事をしてみせろ」
振り返る事無く、私は厨房を後にした。
本部に住むようになってから、彼女は以前のように塞ぎ込むようになった。咳き込む回数も、血を吐く回数も量も増えた。付き合うようになってから減った自傷癖も再発し、毎日、私が食事を持っていくと腕は傷ついて血だらけだった。
「ルーシー・・薬をちゃんと飲むんだ。あれには精神安定剤も入っている」
「・・・・・・ごめ、なさい・・」
自分を傷付けた事では無い。彼女は、私の手を煩わせたと思って謝っているのだ。
「私に謝る事は無い。ルーシー、もっと自分を大切にするんだ」
「・・・・・・」
彼女は、答えない。謝る事すら、しない。
謝る事すら出来ない程、追い詰められているのだ。
「・・すまない・・・傍にいてやれなくて・・・・」
「・・・・・・」
微かに震えながらしがみつく彼女を優しく抱きしめる他に、何が出来るのか。
私には、分からなかった。
夏休みが半分を過ぎた。彼女の誕生日、Mrs.ウィーズリーが祝いたいと言ったが却下した。
「Mrs.ウィーズリー。失礼だが、軽はずみな事は口にしないで頂きたい」
「でも、先生・・・」
「カトレットは自分が生まれてきた事を悔いている。自らの存在を呪っている。そんな彼女に誕生日を祝おうなど・・」
「少しでも好きになってもらいたいのよ。自分の存在を嫌いながら生きるなんて・・・」
「カトレットが望まない事はしない」
彼女がもう長くない事を気付かない訳にはいかない
残された時間は少ない
呪いを、解いてやりたいのに
生きて欲しいのに
――共に、生きたいと想うのに
せめて、彼女の心を少しでも安らがせてやりたい
彼女を傷付ける事をしたくない
出来るのなら、最期のその瞬間まで傍にいてやりたい
彼女の最期となるその瞬間、
私は、耐えられるだろうか――?