それからは、何かが変わったように思えた。
彼女が部屋にやって来て、いつものように宿題をこなし、他愛無い話をして、時折、手を繋いでキスをする。
まるで、学生同士の恋愛のようだった。けれど、それだけで満足だった。
彼女を抱きしめる事が出来る事が嬉しかったのかもしれない。会うたびに抱きしめ、その細さに少しだけ眉を寄せた。
彼女の体調の変化に敏感になる事も出来た。
彼女が少しでも塞ぎ込んでいれば、気付く事も出来るようになった。
彼女という存在が、私を変えてくれた事は確かだった。
第3の課題、戻って来たポッターは同じ選手であるセドリック・ディゴリーの死体を連れていた。生気の無いその身体を見た時、私は急いで彼女を探した。
彼女は、虚ろになったその瞳でディゴリーを見つめながら、何かを呟いていた。
「ルーシー・・ルーシー・・・!」
混乱する生徒の群れから連れ出して名を呼ぶと、彼女は漸く我に返って私を見た。
「せん、せ・・わ、わたし・・わたし・・・」
「ルーシー、大丈夫だ・・・・大丈夫だ・・・・」
「わたし・・・」
【私も、あんな風に死んじゃうの?】
考えたくなかった事だった。呪いの進行は止まる事なく、彼女を蝕んでいた。私は彼女を医務室へと連れて行こうとして、思い止めた。きっと、医務室にはポッターが向かうだろう。彼女と、会わせてはいけないと思った。
私は、彼女を私の部屋へ連れて行った。
「ルーシー・・休んでいろ。すぐに戻って来る」
「せんせい・・せんせい・・・・」
「大丈夫だ――必ず、戻って来る」
泣きそうな表情で頷いた彼女にキスを落とし、私はダンブルドアの元へと向かった。
今年度の初めから、アズカバンを抜け出していたバーティ・クラウチ・Jrがムーディに成りすましていた事を暴き、医務室へ向かった。ファッジは帝王復活を信じないまま城を去り、ポッターの見舞いにやって来ていた犬がブラックだったのだとダンブルドアが言った。
「貴様・・!!」
ブラックの姿を見た瞬間、私は再び強い怒りを覚えた。
「セブルス、シリウス。休戦じゃ」
ダンブルドアの言いたい事は分かっていた。けれど、彼女を苦しめ続けているこの男を憎む気持ちだけは消す事が出来なかった。
任務を命じられて医務室を出て行くブラックが、ポッターに優しく微笑みかけているのを見て、私は怒鳴りそうになるのを必死に堪えた。
すぐ傍に、娘がいるというのに
彼女が、苦しんでいるというのに
貴様は、何故ポッターしか見ない?
「――セブルス・・もし、君がやってくれるのなら・・・・」
「・・・・・大丈夫です」
やらなければならない事は分かっていた。左手に闇の印を持つ私だけが、スパイとして潜入出来るのだ。
「校長。私の部屋に・・」
「・・・分かった。ミネルバに伝えておこう」
察してくれたダンブルドアに軽く頭を下げ、私は任務へと向かった。
【すぐに戻る】
その言葉を信じて眠る彼女が瞳を覚ました時に、傍にいてやりたかった
(すまない・・・)
心の中で呟き、私は闇の帝王の元へ向かった。
翌日、任務から戻った私はダンブルドアに報告をする為に校長室に向かった。
「ルーシーは君の部屋におるよ」
「医務室に移動しなかったのですか?」
「君が【必ず戻る】と言ったから、待ちたいのだと言っておったよ」
「そう、ですか・・・」
きっと、ダンブルドアは全てを知っているのかもしれない。けれど、それを確認するような真似はしなかった。
「――失礼します」
「セブルス」
校長室を出ようとした私をダンブルドアが呼び止めた。
「あの子は君に救われているようじゃ。そして、君も――」
「・・・・・・・・失礼します」
余計な事を、と内心毒づきながら、私は彼女の元へ急いだ。部屋に戻ると、彼女の姿は無かった。寝室の扉を開けると、薄暗い室内に彼女のシルエットを見つけた。
「ルーシー・・」
「・・・せん、せい・・?」
掠れた声の彼女の腕は、血に染まっていた。私を待っている間、ずっと腕を引っ掻いていたようだった。
「すまない・・・遅くなってしまって・・・・」
「せんせい・・せん、せぇ・・・」
くしゃ、と顔を歪めた彼女を抱きしめると、鉄の臭いが鼻をついた。
「すまない・・・ルーシー・・・・すまない・・」
「せんせぇ・・せんせぇ・・・」
泣き出したルーシーに謝り続け、数分後、手当てをしながら彼女に全てを話した。
憎んでくれても構わない、と最後に呟いても、彼女は何も言わなかった。たっぷり数分間、沈黙を部屋に落とした彼女は、俯いたままポツリと呟いた。
「・・・・【例のあの人】が復活したの?」
「あぁ・・・」
「・・・そっか」
「・・・・・・怒らないのか?」
至って普通な彼女に、少しだけ恐怖を覚えた。もしかしたら、次の瞬間、盛大に泣かれるかもしれない。罵られるかもしれない、と。
けれど、彼女は何も言わなかった。
「私を憎んでも良いのだぞ?結果的に・・・君を騙した事に変わりは無い」
「・・・・・・・・・・先生の事憎むんなら、私、この世の全員を憎めます」
「ルーシー・・・」
「もう良いんです・・・先生はちゃんと償ってくれたでしょう?こうして私に薬を作ってくれてる」
「だが・・・」
「好きだって想ってくれたのは先生の気持ちだって信じてても良いですか?」
「ルーシー・・」
「正直な話、私にはそっちの方が大事です。先生が罪の意識だけで私を想ってるフリをしてくれてたのなら・・・・・きっと、私は先生を憎めますよ」
顔を上げた彼女と視線が交差した。
罪の意識はある。当然だ。
けれど、この気持ちは――
彼女を想うこの気持ちは、本物だと信じたい。
「・・・・・・どうやら、憎んではもらえないようだ」
「良かった・・・・」
安堵の息を漏らし、彼女が私に擦り寄ってくる。拒絶されなった事が、こんなにも心を救ってくれた。罪の意識は消えない。けれど、だからこそ――
彼女の為に、生きようと想うのだ