その年の終わり、ルーピンの元に脱狼薬を持って行った私は、デスクの上に広げられた地図を見た。
シリウス・ブラックの文字。ハリー・ポッター、ロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャー、ピーター・ペティグリューが1つの場所に集まっていた。そして、そこに向かうリーマス・ルーピンの文字。
思わず、彼女の名前を探した。彼女は寮の部屋にいた。
私は、迷う事なくブラック達の元へ向かった。
叫びの屋敷に向かう途中、暴れ柳の下で拾ったポッターの透明マントを被り、私は叫びの屋敷へと急いだ。
叫びの屋敷でブラックの姿を見た瞬間、脳裏に蘇ったのは彼女の泣き顔だった。
次いで浮かんだのは、彼女が咳き込み、血を吐く姿。
【この地獄で・・・私は・・何故、長く存在しなければならないんですか・・・?】
【ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・!!!殺さないで・・殺さないで・・!!】
ルーピンは、学生時代の話をポッター達に話して聞かせていた。
私は、頭の中が真っ白になっていくのを感じた。
学生時代の話?
違うだろう、ブラック
貴様がしなければならない事は・・
今、貴様がしなければならない事は何だ?
ポッターを護る事?
違う
裏切り者のピーター・ペティグリューを殺す事?
違う・・!!
「だからスネイプは貴方が嫌いなんだ」
学生時代、ブラックが仕掛けたふざけた悪戯で私が死にかけたという話を聞いたポッターが呟いた。
「スネイプは貴方もその悪ふざけに関わっていたと思った訳ですね?」
「その通り」
透明マントを脱いだ私は、きっと――彼女には見せられない醜悪な顔をしていただろう。
「我輩は校長に繰り返し進言した。君が旧友のブラックを手引きして城に入れているとね。ルーピン、これが良い証拠だ。いけ図々しくもこの古巣を隠れ家に使うとは、さすがの我輩も夢にも思い付かなかった」
「セブルス、君は誤解している」
ルーピンが切羽詰ったように言った。
「君は話を全部聞いていないんだ――説明させてくれ――シリウスはハリーを殺しに来たのではない――」
だが、彼女を迎えに来た訳でも無いのだろう?
貴様にとって、彼女はその程度の存在なのだろう?
父親のくせに――!
「今夜、また2人、アズカバン行きが出る。ダンブルドアがどう思うか、見物ですな・・・ダンブルドアは君が無害だと信じ切っていた。分かるだろうね、ルーピン・・・・飼い慣らされた人狼さん」
「愚かな。学生時代の恨みで、無実の者をまたアズカバンに送り返すと言うのかね?」
私の杖先から細い紐が噴き出てルーピンの全身を縛り上げた。ブラックが襲いかかって来たが、すかさず杖先を眉間に突き付けてやると、ブラックは動きを止めた。
「我輩にきっかけさえ与えてくれれば、確実に仕留めてやる」
彼女の為に
貴様は存在しない方が良い
「スネイプ先生――」
躊躇いがちにグレンジャーが私に呼びかけた。
「あの・・この人達の言い分を聞いてあげても、害は無いのでは、あ、ありませんか?」
「Miss.グレンジャー、君は停学処分を待つ身ですぞ。君も、ポッターも、ウィーズリーも、許容されている境界線を越えた。しかもお尋ね者の殺人鬼や人狼と一緒とは。君も一生に1度くらい黙っていたまえ」
「でも、もし――もし、誤解だったら――」
「黙れ、この馬鹿娘!!」
誤解?そんな事はどうだって良い。
ブラックは彼女を棄てた
それだけが、真実だ――!!
「分かりもしない事に口を出すな!!!」
グレンジャーが黙ったのを確認し、私はブラックに向き直った。彼女には、ブラックの面影は少しも無かった。こうしてブラックを見ても、彼女の父親だとは思えない。だが、確かにこの男が父親なのだ。
「――復讐は蜜より甘い。お前を捕まえるのが我輩であったらと、どんなに願った事か・・・・」
彼女の代わりに、殺してやりたいと思った
彼女の為に、殺さなければとも思った
「お生憎だな」
ブラックが憎々しげに言った。
「しかしだ、この子がその鼠を城まで連れて行くなら――それなら、私は大人しくついて行くがね」
「城までかね?そんなに遠くに行く必要は無いだろう。柳の木を出たらすぐに、我輩が吸魂鬼を呼べばそれで済む。連中はブラック、君を見てお喜びになる事だろう・・・喜びの余りキスをする。そんな所だろう・・・」
「聞け――最後まで、私の言う事を聞け」
ブラックが掠れ声で言った。
「鼠だ――鼠を見るんだ――」
「そんな事はどうだって良いのだよ、ブラック。――貴様がこの世界で【誰よりも】不幸になる瞬間を見たい」
彼女の為に
彼女は、貴様達の所為で不幸になった
彼女は、貴様達の所為で狂わされた
「来い、全員だ」
ルーピンを縛る縄目の端を持ち、扉へ向かった。だが、扉の前に移動したポッターが私の行く手を阻んだ。
ポッターが、父親と重なって見えた
貴様まで、邪魔をするのか
貴様も、ルーピンも
ブラックも、レイアも
貴様ら全員が、彼女を傷つける存在でしかないのだ――!
「退け、ポッター!!」
「恥を知れ!!学生の時、からかわれたというだけで、話も聞かないなんて――」
「黙れ!!我輩に向かってそんな口の聞き方は許さん!!」
何も知らないくせに――!!!
「蛙の子は蛙だな、ポッター!我輩は今、お前のその首を助けてやったのだ。平伏して感謝するが良い!こいつに殺されれば自業自得だったろうに!お前の父親と同じ死に方をしたろうに。ブラックの事で親も子も自分が判断を誤ったとは認めない高慢さよ――さぁ、退くんだ!さもないと退かせてやる!!退くんだ、ポッター!!!」
「「「エクスペリアームス!!(武器よ去れ!!)」」」
突然、襲いかかってきた閃光が直撃し、私は壁に激突した。
意識が途切れる瞬間、脳裏に浮かんだのはやはり、
彼女の、小さく微笑んだ顔だった。
【私、先生に逢えて良かったです】