09


「ルーシー・・・」

スネイプの部屋のソファの上で膝を抱えるルーシーに、スネイプは気遣わし気に呼びかけた。

「・・・・・・あの男、死んだんだって」
「・・・あぁ・・先程ダンブルドアから聞いた」

痛い沈黙が続いた。やがて、ルーシーは狂ったように笑い出した。

「良い気味だわ!あんな奴・・死んで当然よ!!」

けれど、ルーシーの瞳からは涙が流れていた。大嫌いだと、死んで清々する、と狂ったように笑い続けながら、ルーシーの瞳からは涙が止め処なく溢れていた。
スネイプは何も言わなかった。抱きしめて泣かせてやれば良いのに、とハリーは思ったが、スネイプはそうしなかった。けれど、何故だかその選択が正しいように思えてならなかった。

いつまでも笑いながら泣き続けるルーシーが、痛々しくてならなかった。




卒業したルーシーは、スネイプの家に住むようになった。そこにはピーター・ペティグリュー――ワームテールもいた。スネイプの小間遣いのような事をさせられていたが、スネイプはルーシーの事だけはワームテールに任せる事はしなかった。
ルーシーの身体は痩せ細っていた。衰弱し、いつ死んでもおかしくないように見えた。起き上がる事すら出来ず、ルーシーはスネイプの調合する薬で何とか生命を繋いでいるようだった。

「ごめ、なさ・・」

咳き込みながらルーシーが呟く。口端から溢れる血を拭う事すら出来ないルーシーの代わりに、スネイプが白い布で血を拭った。

「謝る必要など無い・・謝るべきは私の方だ・・・すまない、ルーシー・・傍にいてやれなくて・・・・」

ルーシーは弱々しく微笑んだ。

「ね、せんせ・・・」
「何だ?」
「・・・・わたし、ね・・しぬ、ときは・・・・せんせ、に・・してほしい・・・」

スネイプが瞳を閉じ、強く唇を噛んだ。そんな言葉、聞きたく無いと思っているのだとハリー達にも分かった。

「せんせ、が・・いい・・・・あの、おんな、じゃなくて・・・・」
「・・・・・分かった」
「やく、そく・・?」
「あぁ、約束だ」

すっかり細くなったルーシーの手を取り、小指に自分の小指を絡めてスネイプは微笑んだ。

「お前が・・・・・・お前が逝く時は・・・・私が殺す時だ。他の誰にも殺させない・・レイアには殺させない。――私が・・お前を逝かせてやる」

ルーシーは小さく微笑んだ。嬉しそうな表情だった。

「・・・・・・愛してる、ルーシー・・」
「・・たし、も・・・」

段々と視界が真っ暗になり、そこで、記憶は終わった。
あの後、ハリーはロン、ハーマイオニーと共に校長室で涙を流した事を覚えている。

透明マントを着て急いで叫びの屋敷に向かった3人は、そこで、仰向けに横たわるスネイプに寄り沿って眠るルーシーを見た。そのすぐ傍に小さな瓶が転がっていた。
ルーシーの左手とスネイプの右手はしっかりと絡み合っていて、2人が互いを愛していた事が痛い程に伝わった。

ルーシーの左手の薬指には、細いシルバーのリングが光っていた。



2人は、幸せそうに微笑んでいた。




「――リー、ハリー」

誰かに呼ばれている事に気付き、ハリーはゆっくりと瞳を開けた。何故か視界がぼやけていた。

「ハリー、大丈夫?」
「ジニー・・?」

瞳の前にいたのは、自身の妻であるジニー・ポッターだった。隣には赤毛と黒髪の息子、そして赤毛の娘がいる。

「パパ、どうしたの?」

ハリーと瓜二つの次男、アルバス・セブルス・ポッターが首を傾げた。

「え?」
「哀しい夢でも見たの?」

泣いてるよ、と長男であるジェームズ・シリウス・ポッターがハリーの顔を指した。頬に触れて漸く、ハリーは寝ながら涙を流していた事に気付いた。

「大丈夫?」

3番目の子であるポッター家の長女、リリー・ルーナ・ポッターが首を傾げた。ハリーは涙を拭い、笑った。

「何の夢を見てたのか忘れちゃったよ」

3人の子供は笑ったが、ジニーだけはまだ心配そうにハリーを見ていた。けれど、ハリーが微笑んだので肩を竦めた。

「早くしないと、ロン達が待ってるわよ」
「あぁ・・そう言えば約束してたっけ・・・あ、もうこんな時間だ!急がなきゃ・・ジェームズ、リリー、アルバス!早く上着を着て靴を履きなさい」

はーい、と元気良く返事をし、3人の子供達は玄関へと向かった。後ろ姿を見送りながらジニーが言った。

「ハリー、大丈夫?」
「あぁ・・・ルーシーとスネイプの夢を見てたんだ」

ジニーは驚いてハリーを振り返った。

「ルーシーがね、言ったんだ。【世界は哀に満ちている】って」
「【哀】?」
「哀しみに満ちている、って事さ。日本語、僕も少しだけ勉強したんだよ」

ハリーは微笑んでジニーに言った。

「僕ならどんな答えを出すのかな、って思ってさ」

玄関の方から、ハリーとジニーを呼ぶ子供達の声が聞こえた。

「それで?貴方はどんな答えを出したの?」
「そうだな・・僕はね――」





【世界は愛に満ちている】





ジニーは微笑んでハリーの頬にキスをした。

「そう信じたいよ」
「そうね・・・・私もそう信じたいわ」

ハリーは伸びをしてから言った。

「急がなきゃ。早くロンとハーマイオニーの子に会いたいよ」
「生まれたばかりだものね。そう言えば、名前聞いた?」
「聞いたよ。僕、その子にはアルと結婚して欲しいな」
「気が早いわよ」

クスクス笑いながらも、ジニーもそう思っている事が見てとれた。

「ロンとハーマイオニーの子なんだ。幸せな子に育ってくれるよ」
「そうね・・・・さ、【セブルス】と【ルーシー】の初対面よ」
「アルがスネイプみたいにならない事だけを願うよ。あぁ、でも・・」

ハリーは穏やかな表情で言った。

「スネイプみたいに・・・あんな風に誰かを愛せる人になって欲しいかな」

ハリーはジニーの肩を抱き、愛しい子供達の元へ向かった。