03


翌朝、慌しい様子でハリー達は玄関ホールへ集まった。汽車の時間に遅れてしまう、とモリーが苛々しながら叫び、玄関ホールに飾られているシリウスの母親の肖像画が屋敷にいる人間達に罵詈雑言を叫んでいた。
全員が玄関ホールに下り、用意された車に乗り込み始める。ハリーがモリーとトンクスと共に車に乗り込もうとした時、モリーが困ったように叫んだ。

「あぁ、シリウス、何て事を!ダンブルドアが駄目だって仰ったでしょう!」

熊のように大きく真っ黒な犬に変身したシリウスがハリーと一緒に乗り込んだのだ。ふと、ハリーはルーシーの姿が無い事に気付いた。

「おばさん、ルーシーは?」

途端にシリウスが少しだけ唸った。それを見たモリーは溜息混じりに言った。

「昨晩、スネイプ先生と一緒に行ったらしいのよ。もう学校にいるはずだわ」
「え?じゃあ、列車に乗らないって事?」
「もうホグワーツにいるんだもの。駅に戻って来ても1回行くなんて面倒な事しないでしょう?」
「ほーらシリウス。しょうがないでしょ?ルーシーがセブルスに懐いてんだから」

トンクスが宥めるように言うが、シリウスは大きく鼻を鳴らした。

「昨日学校に戻った、って・・ダンブルドアは許可したの?」
「したんじゃない?まさかセブルスが独断で連れて帰れないだろうし・・・あぁ、2人がそういう関係だったんならあるかもしれないけど――って、冗談よ、シリウス!」

グルグル唸るシリウスにトンクスが慌てて訂正した。

「教師と生徒だし、ほら・・シリウスの子なんだからセブルスがそういう気起こす訳――」
「トンクス!そんな話をハリーに聞かせないで頂戴!」

モリーがトンクスを叱る。トンクスは苦笑して頭を掻いた。
駅でモリーやシリウス達と別れ、ハリー達は列車に乗ってホグワーツへと戻って行った。広間でルーシーの姿を見つけた時は、ルーシーはアンジェリーナの隣に座って微笑んで話をしている所だった。組分け帽子が学校に警告を発したり、魔法省から新しい教師がやって来たり、今年も大変な1年になりそうだ、とハリーは思った。




翌日から授業が始まった。月曜日の時間割は最悪で、【魔法史】、【魔法薬学】、【占い学】、そして魔法省からやって来たアンブリッジの【闇の魔術に対する防衛術】の授業だったのだ。
【魔法史】の授業が終わり、【魔法薬学】の授業へ向かったハリーは、教室の扉を開いて驚いた。もうすぐ次の授業が始まるというのに、そこにルーシーがいたのだ。驚いていたのはハリー達だけではなかったようだ。ロンもハーマイオニーも、他のグリフィンドール生達もスリザリン生達もチラチラとスネイプとルーシーを盗み見ていた。2人は向かい合って立ち、何かを話していた。

「――分かりました」

やがて、ルーシーが静かに言ったのが聞こえた。

「我輩の方からマクゴナガル先生とマダム・ポンフリーに伝えておこう。Miss.カトレット、我輩の言った事を忘れるな」
「・・・・・・努力します」

頭を下げ、ルーシーは教室を出て行った。ハリー達の方を見る事はしなかった。扉が閉まると、スネイプが授業を開始した。

「何だったのかしら?」

こっそりとハーマイオニーが囁いたが、ハリーもロンも、答えを持っていなかった。
昼食を終え、次の【占い学】を終えたハリーは、次の【闇の魔術に対する防衛術】でアンブリッジに対して怒りを抑える事が出来なかった。ヴォルデモートが蘇ったのだと叫び、罰則を頂戴すると共に、マクゴナガルの元へ行け、と封された手紙を渡された。
苛々しながらマクゴナガルの部屋へ行くと、そこには驚いた事にルーシーの姿があった。ソファに座っていて、テーブルにはティーカップが2つあった。どうやら、お茶をしていたのだとハリーにも分かった。
ハリーが来た事に気付いて帰ろうと立ち上がったルーシーをマクゴナガルが止めた。

「お待ちなさい、話は終わってませんよ。待っていなさい」
「・・・・・・はい」

渋々といった様子で座り直すルーシーを確認し、マクゴナガルはハリーに向き直った。

「授業はどうしたのです?」
「先生の所に行って来いと言われました」

硬い表情でアンブリッジからの手紙を渡すと、マクゴナガルは顰め面で受け取り、手紙を読み出した。

「――それで?」

マクゴナガルが言った。

「本当なのですか?」
「本当って、何がですか?」
「アンブリッジ先生に対して怒鳴ったというのは本当ですか?」
「はい」
「嘘吐き呼ばわりしたのですか?」
「はい」
「【例のあの人】が戻って来たと言ったのですか?」
「はい」

マクゴナガルは顰め面でハリーを見てから先程座っていたであろうソファに戻った。

「ビスケットをお上がりなさい、ポッター」
「え?」
「ビスケットをお上がりなさい」

ルーシーとマクゴナガルの正面にあるテーブルにあるタータンチェック模様の缶を指差してマクゴナガルは言った。

「ルーシーの隣にお掛けなさい」

ピクリとルーシーが反応したのをハリーは見たが、ルーシーがそれ以上何も反応を示さないので渋々と隣に腰を下ろした。

「ポッター、気をつけないといけません」

ハリーが生姜ビスケットを口に放ったのを確認し、マクゴナガルは言った。

「ドローレス・アンブリッジの授業で態度が悪いと、貴方にとっては寮の減点や罰則だけでは済みませんよ」
「どういう事――?」
「ポッター、常識を働かせなさい。あの人が何処から来ているか分かっているでしょう。誰に報告しているのかも分かっているはずです」

就業ベルが鳴った。

「手紙には、今週、毎晩貴方に罰則を科すと書いてあります。明日からです」
「今週毎晩!」

ハリーは驚愕して繰り返した。

「でも、先生、先生なら――?」
「いいえ、出来ません」
「でも――」
「あの人は貴方の先生ですから、貴方に罰則を科す権利があります。最初の罰則は明日の夕方5時です。あの先生の部屋に行きなさい。良いですか。ドローレス・アンブリッジの傍では言動に気を付ける事です」
「でも、僕は本当の事を言った!ヴォルデモートは戻って来た。先生だってご存知ですし、ダンブルドア校長先生も知ってる――」
「ポッター!何という事を!これが嘘か真かの問題だとお思いですか?これは、貴方が低姿勢を保って、癇癪を抑えておけるかどうかの問題です!」

それからビスケットをもう1つ強引に渡され、ハリーはマクゴナガルの部屋を後にした。扉が閉まる直前、ハリーの耳にマクゴナガルの言葉が聞こえた。

「先程の事は、貴方にも言える事ですよ、ルーシー」

扉が閉まり、ハリーはそれ以上聞く事が出来なかった。




魔法省からやって来たアンブリッジがホグワーツ高等尋問官に任命され、好き放題を始めてからハリー達は【闇の魔術に対する防衛術】を自分達で学ぼうと考えた。
ハーマイオニーが集めた生徒達20数名で【ダンブルドア軍団(DA)】を結成し、練習に励んだ。ホグワーツで働く屋敷しもべ妖精ドビーから【必要の部屋】の存在を聞き出し、そこを練習場所と決めた。
数回目の練習の後、談話室で宿題をしていたハリー、ロン、ハーマイオニーの元にフレッドとジョージがやって来た。

「最近、ルーシーの様子がおかしい」
「ルーシーの?」

フレッドとジョージは頷いた。

「アンジェリーナも言ってる。夏休み前は笑ってたのに、最近は全然笑わないって」
「どういう事?」
「笑う事が出来なくなるような何かがあったんじゃないか、ってアンジェリーナは言ってた。けど、聞いてもルーシーは大丈夫の一点張りで何も言わないらしいんだ」
「じゃあ、大丈夫なんじゃないの?」

ロンが言うと、フレッド、ジョージ、ハーマイオニーが溜息をついた。

「夏休みの頃から笑わなかったわよね?」
「って事は、つまり――」
「シリウスの事、とか?」

全員が難しい顔で唸った。

「身体が弱くて薬を飲んでるって言ってたわよね?それの所為・・・よりも、シリウスの事の方がそうっぽいわよね」
「どうなんだろう・・・ルーシーはどう思ってるのかな?シリウスの事――」
「僕、パーティの時にスネイプとムーディの話を聞いたんだ」

ハリーはスネイプとムーディが話していた事、マクゴナガルの部屋で聞いたマクゴナガルの言葉を皆に話した。

「【あれ】って何だろう・・?」

ロンが首を傾げた。

「スネイプが言っていたの?ルーシーがシリウスに歩み寄る気はこれっぽちも無いって宣言してる、って?」

ハリーは頷いた。

「スネイプは何を知ってるんだ?」
「どうしてルーシーを庇うような言い方してるんだろう?気になるな」

フレッドとジョージは顎に手を当て、全く同じポーズで唸った。

「ムーディは何を見たんだろう・・・?」
「マクゴナガル先生が言った【貴方にも言える事ですよ】って言葉の意味は?」
「僕は癇癪を抑えろって言われたんだ」

ハリーが言うと皆は更に難しい顔で悩んだ。

「ルーシーが癇癪を起こすのか?」
「分からないけど・・・僕はそう言われたんだ」
「癇癪を抑える?ルーシーが?」

暫く考えたが、結局何も分からないままだった。