『俺の息子になれ』
家族というものを知らなかった俺に、オヤジはそう言った。
独りで戦おうとする俺に、頼る事を教えてくれた。
独りで生きてきた俺に、人の温かさを教えてくれた。
独りだった俺に、家族を与えてくれた。
オヤジの為に生きると決めた。家族の為に戦うと決めた。
『好きです』
だから、受け入れるわけにはいかねぇんだ。
「隊長、書類集めてきました」
「あぁ、ありがとよい」
いつものように笑って書類を受け取る。リサも「他に何かやる事ありますか?」と笑う。無理して笑ってんのがバレバレなのに、俺は「そうだなぁ」なんて気付かないフリをする。
なぁ、何で俺なんかに惚れちまったんだ
サッチに惚れてりゃ良かったじゃねぇか。女癖は悪ィが、きっと惚れた女が出来れば一途に愛してくれる。
イゾウに惚れてりゃ良かったじゃねぇか。ドSだから泣かされる事はあるだろうが、きっと大事にしてくれる。
他にもイイ奴なんて沢山いる。リサだって知ってるはずだ。
何だって俺なんかに惚れちまったんだ。
お前の気持ちに応える事なんざ、天地がひっくり返っても有り得ねぇのに。
「悪ィが、サッチんトコに行ってコーヒーもらってきてくれるか?」
「はい。いつものブラックで良いですか?」
「あぁ、頼むよい」
体よく追い出された事にアイツも気付いてるんだろう。俺に向けた背中が悲しげだった。静かに閉まった扉を見ていた俺は書類に視線を戻すけれど内容なんて入ってこない。
『お前、リサの事好きだろ?』
普段おちゃらけてるくせに、サッチの鋭さに舌打ちが零れる。気付かれる素振りなんざ取った覚えはねぇってのに。
好きか嫌いかなんて聞かれたら好きに決まってる。
けど、それが家族へ対するものか否かと問われれば俺の答えは一つしかない。
家族だ。
それ以外は有り得ない。有り得てはならない。
アイツを家族以外のモノにしちゃならねぇし、したくねぇ。駄目に決まってる。家族を家族と思わないのは駄目だ。
俺にとっての最優先は家族だ。女なんざ比べ物にならねぇ。リサを『女』にしちまうのは、リサに対する裏切りだ。オヤジに対する裏切りでもある。家族を裏切る事は出来ない。
だから、言うな。好きだなんて言うな。
サッチが聞けば「お前、頭固すぎ。もっと気楽にいこうぜ」なんて笑い飛ばされるのだろう。
ナースと付き合ってる奴だっているし、それが悪いとは思わない。他の妹と付き合ってる奴だっている。それが悪い事とは思わない。好き合ってるならそれで良い。そう思う。
でも、俺は駄目だ。他の兄弟達が、姉妹達がそうするのは悪いと思わないのに、俺の事となるとどうしても悪いとしか思えない。俺は駄目だ。
ノックの音がして、控えめに扉が開く。
「隊長、コーヒー持ってきました」
「ありがとよい」
リサからコーヒーを受け取って笑う。微笑むリサはやはり悲しげで、思わずカップじゃなくてリサの手首を掴みそうになる。俺より細い手首を掴んで抱きしめて、好きだって言えたらどんなに良いだろうか。
そんな事あってはならない。俺の頭がそう訴える。触れるな。近寄るな。何も言うな。突き放せ。彼女は妹なのだから、と。
「あ、の……隊長、」
躊躇いがちに口を開くリサに「ん?」と微笑む。何も言うなとでも言うように。そんな俺を見て開きかけた口を閉じたリサは目を伏して首を振った。
「お仕事、頑張ってください」
「あぁ」
「何か手伝える事があったら言ってくださいね」
「おう」
「失礼します」と言ってリサが部屋を出て行く。書類に視線を戻すが、やはり何も入ってこない。
湯気の立つコーヒーに手を伸ばして啜ると、慣れた苦味が口内を満たした。
「………すまねぇ、」
ポロッと零れた呟きに苦笑してカップを置いた。
他の兄弟達がどう思っているのかは分からない。だから、誰が誰と付き合おうが何とも思わない。幸せになれと祝福してやれる。アイツらは家族だから。
けど、俺は駄目だ。自分が家族に手を出すのだけは許せない。家族を家族以外にする事が赦せない。
それはオヤジに対する裏切りだ。俺に対する裏切りだ。リサに対する裏切りだ。
それだけは、赦せない。
それなのに、
隣で笑っていてもいいですか
馬鹿げてる。男として傍にいたいだなんて。