「は? フラれた?」
一瞬、自分の耳を疑った。目を丸くして目の前にいるリサをじっと見つめると、「変な顔してますよ」と苦笑された。失礼な。
「え、マジで言ってんの?」
「マジで言ってます」
「アイツに?」
「サッチ隊長の思い描く人物と私の言う人物が同じなら、その人に」
回りくどい言い方しやがって。けど、俺は知ってる。そうやって可愛くない話し方をする時は相当追い込まれてる時だ。
「いや、ちょっと待てって」
「ここにいるじゃないですか」
「え、好きって言ったんか?」
「言いました」
「アイツは何て?」
「『ワリィなぁ、よく聞こえなかったよい』」
一瞬の間。
「………そ、か」
何て言ったら良いか分からなかった。
それはつまり、告白すらさせてもらえなかったって事だ。マルコの中で、それは無かった事と同じだ。
それは、いくら何でも――。
どんな顔をしたら良いのかも、何て言って慰めてやったら良いのかも分からなかった。
目の前のリサはまるで「もう吹っ切れました」と言わんばかりの顔で笑っている。けど、気付かない訳にはいかない。薄っすらと赤くなったその目元だけは誤魔化しようがなかった。
「リサ……」
「ねぇ、サッチ隊長」
とにかく何か言わなければと名前を呼んだら、リサが遮った。
「私、愛されてるんです」
「は?」
突然何を言い出すんだ?
けど、続いたリサの言葉に今度こそ何も言えなくなった。
「あの人が言ってくれました。私の事、愛してるって」
いくら何でも、キツイ。
マルコが言いたい事は分かる。俺だって家族が一番大事だ。親父も、この船に乗ってる奴らも、俺にとってはかけがえの無い存在で、いくら女好きの俺でも家族と天秤にかけたら迷ったりしない。
けど、それは余りにもあんまりだろ。
惚れた男に女として見てもらえないってだけで十分辛いはずだ。それなのに、『愛してる』って言うのは残酷じゃないか。そんな事を言われたら、リサはもうマルコに対して何も言えない。マルコへの想いが俺や他の奴等に対するのと同じ『好き』になるまで、リサは一人で苦しみ続けるしかねぇ。
「サッチ隊長はずっと相談に乗ってくれてたんで……一応、ご報告です。今までありがとうございました」
ぺこりと頭を下げてリサが俺の部屋を後にする。その背中はいつもと変わらないはずなのに、やっぱり何処か悲しげだった。
「なぁ、マルコ」
夜中、甲板で一服してるマルコに「ちょっと良いか?」と話しかけると、マルコは「まだ起きてたのかい」って言いながら手に持っていた酒瓶を差し出してきた。
「サンキュ――って、空じゃねぇかよ!」
その軽さに溜息を漏らさずにはいられない。ったく、イイ性格してやがる。喉を鳴らすマルコの足元に座り込んで酒瓶を置くと、船縁に肘をついて海を眺めながらマルコが「何か用かい」って話を切り出してきた。もしかしたら、俺が何を言いたいのかも分かってんのかもしれねぇな、なんて思った。
「愛してるんだって?」
「……何の事だい?」
「白々しい奴。分かってたんだろ?」
マルコは答えないが、それが逆に肯定の意味を持ってる事はすぐに分かった。
「聞いてやる事もしねぇのに、ちょっと残酷じゃねぇか?」
フゥ、と煙を吐き出して煙草を海に捨てながらマルコが口を開いた。
「俺ァ、アイツを家族だと思ってる。それをそのまま口にしただけだい」
「俺だって『家族』の方が大事だからお前の言いたい事は分かる。けどな、相手がアイツなら話は別だ」
「何が言いてェんだい」
「お前、リサの事好きだろ?」
マルコが凄い勢いで俺を振り向いた。バレてねぇとでも思ってたのかよ。何が家族だと思ってるだ。俺様を誰だと思ってんだ?だてにお前と長年過ごしちゃいねぇよ。
「だから、俺は理解出来ねぇ。お前がアイツを受け入れなかった理由も、わざと傷付けるような言い方した事も。アイツはこれから、お前への気持ちが無くなるまでずっと一人で苦しみ続けんだぞ? 何で『家族』にそんなヒデェ事すんだ?」
答えないマルコに溜息をついて立ち上がった。言いたい事は言えた。後は俺が口を出す事じゃねぇ。マルコがどうすんのかは分かんねぇけど、まぁ、何かしらのアクションは起こすだろう。
「俺ァ寝る」
ヒラヒラと手を振って甲板を後にした。
マルコの方は見なかったから、アイツがどんな顔してたかは分かんねぇけど、きっと、俺が見た事ねぇような顔してんだろうなって思った。
それぞれの視点
これが『家族』じゃなかったら、他人の恋愛なんざに首突っ込んだりしねぇんだからな!