ずっと好きだった
この船に乗ったその時から――ううん、きっと彼を初めて見たその時から。
家族だけに見せる彼の優しい笑顔に、恋に落ちた。
一番隊隊長である彼に近付く為に必死に頑張った。
戦闘訓練は勿論、雑用だって真剣にこなした。
その甲斐あってか、船に乗り込んでから五年後、私は一番隊副隊長の座を手に入れた。
勿論、自分を磨く事だって怠らなかった。
彼に女として見てもらう為に、ナース達に化粧の仕方とかも教えてもらった。
他の隊長達から彼の好みを聞き出して髪も伸ばした。勿論、手入れも抜かりない。
ただ、好きになってもらいたかった
「リサ」
私の名前を呼ぶ彼の目は優しかった。
陸に下りた時、他の船員達みたいに彼が女を買っていた事は知ってる。
でも、いつか私に触れてくれる日が来るって信じてた。
私だけを求めてくれる日が来るって信じてた。
「隊長、何してんですか?」
夕暮れ時、甲板でボーっと海を眺めてる彼を見つけて声をかけた。
船縁に寄りかかり煙草を吸っていた彼は、フゥと煙を吐き出してから振り向いた。
「仕事終わったんですか?」
「あぁ、さっきな。漸く暇が出来た」
「もっと私に仕事を回してくれて構わないのに……」
折角、副隊長になったんだから。
もっと役に立ちたい。この人の役に立ちたい。
傍にいたい。
誰よりも、近くに――
「マルコ隊長」
「ん?」
「私――隊長が好きです」
彼の唇からフゥ、と吐き出された紫煙が緩やかに立ち上っていくのをジッと見つめた。
彼がゆっくりと振り返る。
「ワリィなぁ、よく聞こえなかったよい」
彼は、優しく笑っていた。
家族に向ける、優しい笑顔だった。
彼にとって、家族は何よりも大切なものだって分かってる。
『女』なんて、彼にとってはどうでも良い存在だって事も分かってる。
私は彼にとって何よりも大切な存在だから、彼は私の想いを受け入れてはくれない。
家族よりも下の存在にはしたくないって事なんだろう。
それはとても嬉しい事だけど、とても悲しい事だ。
「――もうすぐ夕飯ですよ、早く行かなきゃ食べられちゃいますからね!」
無理に笑ってみせると、彼は煙草を海に投げ捨てて私の方にやって来た。
海の色をした瞳が優しく私を見つめていた。
爪先が触れ合うくらい近くにやって来た彼は、ゆっくりと屈み込んで私の耳元に囁いた。
「愛してるよい」
私の頭を優しく撫でて彼が歩き出す。きっと食堂へ向かったんだろう。
船室へと続く扉が閉まる音が聞こえ、私はさっきまで彼が立っていた場所へと足を進めた。
「…………私だって、愛してますよ……」
この船を、
オヤジを、
『家族』を
呟くと同時に、透明な雫がぽろぽろと流れ落ちる。
彼にとって、何よりも大切なのは『家族』
私は彼にとって何よりも大切で、だからこそ、『女』にはなれない。
だからこそ、私の告白を聞こえなかったフリをした。
「……嬉しい、はずなのに……」
愛してると言ってもらえたのに
陸の女と違って、無条件に愛してもらえるのに
それなのに、涙が止まらない
頬を伝い、顎へと辿り着いた涙は重力に従ってぽたり、ぽたりと落ちていく。
身を乗り出して上半身だけ船縁を超えると、心地良い風が頬を冷ましていくのを感じた。
「………止まれ……」
呟いてみても涙が止まる事はなく、俯くと零れた涙が海に落ちていくのが見えた。
この想いも一緒に、海の底に沈んでしまえば良い。
水底の真珠
暗く冷たいその場所で、永遠に輝き続けていて