01


「じゃあ次は、ボールを使って遊びます」

ホールに、マイクを使わないマルコ先生の声が響く。ホール中に聞こえるように声を張り上げてるのに全然聞き苦しくなくて、むしろ声が素敵ねーなんて目をハートにしてるお母さんがちらほらいらっしゃいます。

「リサちゃん、ボールもってくる!」
「うん、走ったら転んだりぶつかったりしちゃうから、歩いてって言ってたね。ゆっくり歩いて行っておいで」
「うんっ!」

元気よく頷いたERRORがくるっと背を向けてボールが入ってるカゴへと走って行く。けど、すぐに思い出したのか慌てて歩きに変えるその様子は、もうとんでもなく可愛くて。首から提げていたカメラを慌てて構えてその後ろ姿を連写した。むしろ、もう動画にしちゃおうかなとか思ってると、カゴのすぐそばに立っているマルコ先生がファインダーに映り込む。………撮っちゃえ。パシャリ。

デジカメの画面に映る先生は、足元の園児たちにボールを渡している。丁度ERRORに渡したところを激写出来たのは良かった。ERRORにボールを渡す先生はすごく優しい顔をしていて、思わず画面に見入っていた私は我に返ると慌ててまたERRORを探した。

「リサちゃん! ボール!」
「お帰りー、よく出来ました!」

ボールを抱えるERRORの頭を存分に撫でて、ぎゅーっと抱きしめる。可愛い。可愛い可愛い可愛い。

「あのね、マルコせんせいがね」
「うん?」
「リサちゃん、かわいいって」
「………!!!」

な、何てことを言うんだあの人は!
慌てて顔を上げた私の目に映るマルコ先生はこっちを向いていて、目が合った瞬間さらに優しく目を細めるものだから、堪ったもんじゃない。
抱きしめたままのERRORに顔を埋めて、赤い顔を隠す。何でだろう、遠くにいるのに笑ってるのが分かる。

「きょう、いっしょにしゃしんとるの!」
「マルコせんせーと?」
「うん! かえりにカメラもってきて!」
「分かった、カッコよく撮ってあげるね!」
「うん!! あ、あとね、マルコせんせーが、リサちゃんともとりたいって」
「………うん」

撮る。頷いた私の頭を撫でてくれるERROR、いい子すぎて涙が出てくる。
笛の音に顔を上げれば、ボールを持った先生が次の遊びを指示する。
いつもは見れない仕事中の先生。いや、いつも仕事中だけど体操の先生だもんね。見れないもんね、中々。

親子体操、お母さんが参加出来なくて良かった。
ERRORには悪いけど。お母さんにもお父さんにも悪いけど。
そんなことを思ってしまうくらいには、マルコ先生がカッコ良すぎた。

ERRORのと同じくらい、マルコ先生の写真を撮ってしまったのは仕方ないことだと思うんだ。





親子体操の時間が終わって、ERRORたち園児は担任の先生に連れられて保育室へと帰って行った。ホールに残ったママさんたちも帰る為にホールを出て行こうとして。

ERROR君のお姉さん」

慣れない呼び方に一瞬戸惑いながらも振り向けば、数枚のCDを手にマルコ先生がこっちにやって来た。

「こんにちは、ありがとうございました」
「こちらこそ。今日はお母さん来れなかったんですね」
「あぁ……今日はどうしても仕事が抜けられなかったみたいで……喚いてました」

あれは煩かった。心の中で続けた私にマルコ先生は笑って。次は来れると良いですね、なんて。
先生の視線がホールの出口に向けられてることに気付いて、私もそっちを見れば最後の一人が外に出たところだった。いつの間にか、私と先生だけしか残ってない。

ERRORの写真、いっぱい撮れたかい?」
「本当は、遊んでる最中の写真も撮りたかったんですけど……やってみたら全部ブレちゃって」
「頑張ってるなーって見てたよい」
「ひどい!」

声を上げて笑う先生を恨めしげに見て、カメラを取り出して先生を撮ってやった。
キョトンとする先生に舌を突き出してやれば、また笑った先生が私の手からカメラを取り上げた。

「ちょ、消しちゃダメですよ!」
「いっぱい撮ってたじゃねぇか」
「何で知ってるんですか!?」
「そりゃ、さすがに気付くよい」

こっちも見てたんだから。
サラッとそんなことを言ってくれる先生に「あー」とか「うー」とか呻いて。
隣にぴったりくっついた先生の手にあるカメラが私と先生を向いていることに気付いて、慌て出す。
ちょ、ちょっと待って!まだ心の準備がっ!

「はい、チーズ」
「わ、わー! ちょちょ、ちょっと待っ……」

ピピッ。あぁ、撮れちゃった………。
絶対変な顔してる。笑ってないもん、慌ててたもん。
落ち込む私を尻目に撮れ具合を確認した先生が、とつぜん声を上げて笑った。

「そんな酷かったんですか!?」
「いや……ほら、見てみろよい」

こんな風に撮ったことなんかねぇから、全然上手く撮れなかったよい。
差し出されたカメラの画面には、端の方に先生と私の顔半分が映ってる。他は天井の照明が映ってて、どっちがメインか分かったもんじゃない。

「先生、下手です」
「俺も、まさかここまでとは思わなかったよい」

笑って消去ボタンを押そうとする先生を止めた。
リサ? 首を傾げる先生に、ダメ。首を振って。

「だって、先生が撮ってくれたんだもん。大事にします」
「何も映ってねぇじゃねぇか」
「映ってます、かろうじて」
「悪かったな」

ぐしゃぐしゃと頭を撫でられて、笑みが零れる。

「そろそろ帰らないと……怪しまれちゃいますよね?」
「そうだなぁ……またお迎えの時間にな」

先生と一緒にホールを出て、先生が鍵を閉めるのを眺める。先生の後頭部って、見てると触ってみたくなるよね。そんなこと言えないし出来ないけど。

「あ、そう言えば」
「ん?」
「お母さんが、良かったら今度遊びに来てくださいね、って」
「家に?」

頷いたら先生は苦笑して照れ臭そうに首筋を擦った。

「………スーツの方が良いかねい」
「な、何しに来るつもりですか!」





アクロバットについていけません。





「今のうちに予約しといた方が良いだろうなと思って」
「予約って……そんな必要ないじゃないですか」

だって、先生くらいですよ。私のことを好きだなんて言う人。
今も、これから先も。先生が嫌だって言わない限り傍にいます。
ぼそぼそと呟いた私に、先生は嬉しそうに笑った。

「なら、尚のこと早めに挨拶に行かねぇと」

じゃねぇと、いきなり娘さんをくださいの挨拶になっちまうだろい。笑う先生に。
じゃあ、私もオヤジさんとエリザさんに挨拶にいきます。同じように笑い返して。

「くださいって言ったら、くれますかね?」

首を傾げた私に、先生は微笑んで頭を撫でてくれた。