「ERROR! お待たせー!」
「リサちゃん!」
ててて、と駆け寄ってくるERRORを力いっぱい抱きしめる。あぁ、可愛い。今日も私の弟はこんなにも可愛い。
「お疲れさん、今日も仲良しだねい」
「あ、こんにちは!」
優しい笑みでこっちにやって来るマルコ先生。あれ?
「あれ、ジャージの丈が変わってる……」
「ん? あぁ……サイズが合わねぇから特注で作ってもらってたんだよい。漸く届いたんだ」
あれじゃさすがに恥ずかしいからねい。そう言って照れ臭そうに笑ったマルコ先生。あ、やっぱり気にしてたのか。そうだよね。でもやっぱり、紺のジャージは似合わない。堪えきれなくなって笑うと、コツンと頭を小突かれた。
「何か腹立つこと考えてるだろい」
「そ、そんな事ないですヨ!?」
「声裏返ってるぞい」
額を弾かれた。結構痛かった。
マルコ先生とお付き合いというものをするようになってから一週間。私達は相変わらずの日々を送っている。そもそも、私は学校とERRORの面倒で時間なんて取れないし、先生も毎日仕事だし。あ、でも遠足の次の日のバイトの後、迎えに来てくれた先生と一緒に夜ご飯を食べた。そこで遠足で無視された理由も聞いた。どうやら私が内田君とメールをして楽しそうに笑っていたのが気に食わなかったらしい。バツが悪そうな顔で話してくれた先生に、意外と独占欲が強いんだなと思うと同時にきゅんとした私は相当惚れているらしい。
それから、私の番号を知っていた理由も聞いた。私の携帯の番号が書かれたメモを、遠足の時にERRORが渡してくれたらしい。私がいなかった時だから、きっと手を洗いに行った時かなんかだろう。因みに、メモを書いたのはお母さんらしい。
お母さんと言えば。ガツンと言ったって聞いたけど、内容を具体的に聞いていなかったから先生に尋ねてみた。
『あんなんでも私の大切な娘なので、本気じゃないならちょっかい出さないでくださいね』
こんにちはー、お疲れ様です、ありがとうございましたーERROR帰るよー。そのやり取りの中で自然に言われたらしい。何でもない事のように。ごくごく自然に。言われた時の先生の動揺は計り知れない。しかも、あんなんって何。
「カレーたべたい!」
「いいねー! じゃあ今日はカレーにしよっか!」
「うん! おかいもの?」
「うーん、今日は大丈夫、かな?」
じゃがいもはあるし、人参も玉ねぎもある。肉も確か冷蔵庫にあったはずだ。ルーも買っておいたのがあるはず。
「じゃあ、急いで帰って作ろうね!」
「うん! マルコせんせー、きょうカレー!」
「良かったな、いっぱい食べて大きくなれよい」
くしゃくしゃとERRORの頭を撫でて笑うマルコ先生。
「ERRORね、マルコせんせーとおなじくらいおおきくなるんだよ!」
「ははっ、そりゃスゲェ。頑張って大きくなってくれよい」
「うん! おおきくなって、リサちゃんまもるの!」
「何この子可愛い!! ERRORー! 早く大きくなってリサちゃん護ってね!!」
可愛すぎる弟をギューッと抱きしめながら頬擦りをすると、ERRORも「うん!」って抱きしめ返してくれた。可愛い。本当に可愛い。
「おい、ERROR」
抱き合う私達の傍にしゃがみ込んだマルコ先生がERRORの目の前で人差し指を立てながらニヤリと笑った。
「お前は、これから会う自分の大切な女を護る為に大きくなるんだよい」
「おんな? ERROR?」
「心底惚れた女を全力で護ってやれよい」
首を傾げるERRORの頭をぐしゃぐしゃ撫でながら、マルコ先生は今度は私を指した。
「ERRORの大事な『リサちゃん』は、俺が護るからよい」
「っ、」
「マルコせんせーがまもるの? リサちゃんを?」
「そう」
「――うん! わかった! ちゃんとまもらなきゃだめなんだよ! やくそくだよ!?」
「おう、約束な」
一瞬で真っ赤になった私などお構いなしに男二人は会話を進めていく。小指を絡めて指切りげんまんまで歌いだした。マルコ先生、歌上手いな。
「――じゃなくてっ、な、何言って……!」
「何って、そりゃ今のうちに分からせとかねぇと、後々面倒なことになっちまうだろうが」
「面倒なこと? 何が?」
「こんなシスコンの弟がそのまま成長したら、『姉ちゃんは渡さない』とか言い出しそうじゃねぇか」
「え、それちょっと言われた――お、思うだけなら良いじゃないですか!」
じろりと睨まれて慌てて後退る。あれから、マルコ先生は幼稚園でもこうやって素を見せてくれるようになった。私だけにっていうのは嬉しいけど、下手したら子ども達に怖がられますよ。付き合ってることは園の人達には内緒だって決めたのに、これじゃいつバレてもおかしくない。先生はそんなスリルを楽しんでいるようにも見える。
「楽しいことがあった方が良いじゃねぇか」
そう言って笑った顔は、オッサンのくせに幼くて可愛かった。
初めてのお付き合いは、スリルと未知で溢れてます。
「あぁ、そうだ。今度オヤジに会ってくれよい」
「へ?」
「リサの話をしたら、会わせろって煩ェんだ」
「な、何を話したんですか……?」
「全部」
「ぜ、全部!?」
それはつまり、携帯代払い忘れた事とかお腹鳴った事も全部!?
「あぁ、面白ェ奴じゃねぇかって笑ってたよい」
目の前が真っ暗になったことは言うまでもない。