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忙しい両親の為、歳の離れた弟のお迎えを自ら申し出た私は、自分で言うのもなんだけどそれなりに出来た娘だと思う。
今年の四月から幼稚園に通うことになった三歳の弟はまだまだ素直で可愛い。友達が「一つ下の弟は全く可愛くない、むしろうざい」って毎日のように繰り返すけど、いつか私もそんな風に思う日が来るのだろうか。出来る事なら永遠に来ないままでいて欲しい。

私も学校があるから、弟は通常保育の後に時間外保育という形で園に残ってもらっている。両親が帰って来るのはもっと遅いから、私が弟を迎えに行って一緒に買い物に行ってご飯の支度をする。私きっといいお嫁さんになれる。いいお母さんにもなれる。そう信じなきゃ正直やってられない。学校の後に友達と遊びたいと思うのは仕方のないことだと思うんだ。

弟のお迎えを始めて半月。こうして毎日お迎えをしていれば自然と先生達の顔も覚えてしまう。お迎えご苦労様です、お姉ちゃんが来てくれて良かったね、優しいお姉ちゃんですね。お世辞なのか本心かは分からない言葉をかけられる事も多くなった。多分、この園の先生は顔だけなら全員覚えたはずだ。

じゃあ、これは誰だ。

ERROR、姉ちゃんが迎えに来たぞい」

気だるそうな顔つき。やる気のなさそうな目。妙な語尾。余りにも特徴的な髪型。そして無駄に長身。先生の制服でもある紺のジャージは全く似合ってない――というか、丈が微妙に短い。半袖の体操着から伸びる腕は無駄に筋肉質で、そこはちょっとカッコイイ。けど似合わない。白いポロシャツ全く似合ってない。
見た目からすると三十代前半くらいだろうか、何から何まで奇妙なお兄さん(三十代前半をお兄さんと呼ぶのかオッサンと呼ぶのかは分からないが)が、弟の通園リュックと通園バッグを弟に手渡す。そう言えば今日は体操袋が持ち帰りの日だった。家に帰ったら即行で洗濯機回さなきゃ。
そんな事を考えている内に弟のERRORは保育士さんからリュックとバッグを受け取ってこっちに駆けてくる。

「おなかへった!」

第一声がそれか。駆けてきたERRORの頭を撫でながらお帰りって声をかけると、ERRORは嬉しそうに目を細めた。くそぅ・・可愛いな私の弟。

「今日は何がいい?」
「からあげ!」
「あー、唐揚げねー……」

揚げるの面倒なんだよなー……けど、これを断ってもどうせハンバーグとか同じくらい手間のかかるものをチョイスするんだろう。

「じゃあ肉買ってかないと」
「にくー! ERRORがにくもつ!」

率先して手伝いを申し出る弟にきゅんきゅんしながらへらりと笑う。あーこのまま可愛い弟でいてくれますよーに!

「へぇ、ERRORの家は姉ちゃんが飯作ってくれんのかい」

色々ツッコミどころ満載な保育士さんの言葉にERRORが大きく頷く。

「ママとパパいないの!」
「ちょ、その言い方ダメ! いるから! 帰ってくるのが遅いだけだから!」

誤解を招く言い方は止めてくれ!そう訴えれば、その場にしゃがみ込んだ保育士さんがERRORと目線の高さを合わせながら頭を撫でる。

「姉ちゃんがいてくれて良かったな。二人なら寂しくねぇだろい?」
「うん! でも、ちょっとさみしい」

大きく頷いたあとに続いた本音。寂しくないわけがない。当たり前だ。けど、私とERRORの学費は決して安くない。数年前に奮発して買った家のローンだって残ってるって零してたのを聞いたことがあるから、簡単に仕事を止めてなんて言えない。

「土曜日は遊園地行くんだもんね、いっぱい遊んどいで」
「うん! ゆうえんち! マルコせんせー、あのね、ERRORゆうえんちいくの!」
「良かったな、じゃあ怪我しねぇように気を付けて帰れよい。じゃねぇと遊園地に行けなくなっちまうぞい」
「やだ! ゆうえんちいくの!」

ニヤリと笑ったマルコ先生(という名前らしい)にERRORが慌てて声を上げる。





初めて見た笑顔はとんでもなく凶悪そうでした。





「せんせー、さよーならー!」

ブンブンと大きく手を振って叫ぶERRORに前見て歩くように注意して、私も振り返ってぺこりと頭を下げた。

「ありがとうございました、さようならー」
「あぁ、気を付けて。また明日」

ヒラヒラと手を振るマルコ先生は相変わらず体操着もジャージも似合ってない。
けど、また明日と言って笑った顔は、さっきとは違ってとんでもなく優しかった。