次の日、リサは朝食の席に姿を現さなかった。
昼食も、夕食もだ。隊ごとに割り当てられる仕事は、怪我人ということで免除になっているから問題はない。けれど、違う意味では問題がありすぎる。
「リサ……今日も来ねぇのかな……」
「……まだちゃんと謝ってねぇよ、俺……」
「俺も……」
あちこちから漏れる溜息が食堂中の空気をどんどん重苦しいものへと変えていく。こんな所でグチグチ言っている暇があるんなら、部屋に行って土下座の一つでもして来い――鬱陶しい空気に苛立ちを隠さないイゾウがそう言って数人の兄弟たちを蹴り飛ばして食堂から追い出したが、十数分後に戻ってきた彼らは出て行った時よりも更に暗い顔でのろのろと席に戻っていった。どうだった?などと聞く愚か者はいない。
次の日も、その次の日も、そのまた次の日も――リサは姿を現さなかった。
食事を運ぶのはマルコかハルタの二人で、リサの部屋から戻ってきた彼らを縋るように見つめるのはどうしようもない勘違いで大切な家族を心身共に傷付けてしまった兄弟たちだ。
「放っとけ」
「、けど……!」
「逆効果だ」
彼らがリサを想って行動すればするほど、意地っ張りで捻くれた妹は苛立ち思いつめ自身を追い詰めていく。何とかして助けてやりたいが、マルコやハルタの言葉だって彼女に届いているのかどうか疑わしい。
”せめて食べな。じゃないとオヤジが心配するよ”
そう言ったのがハルタだったからか、ただ単に白ひげの名に反応したのか。初日こそ殆ど手をつけなかった食事を、今ではきっちり完食してくれるようになった。けれどそれはマルコやハルタが部屋を出ていった後だ。誰かが部屋にいる時、リサは絶対に食事に手を付けようとはしない。
あんまりじゃないか。ハルタは思う。
大切な家族なのに。大切な隊員なのに。
真っ赤な鼻を啜る音も、涙の跡の残る頬も、痛みに歪む顔も、小刻みに震える手も、何もかもが悔しくて、苛立たしくて、悲しくて。
「ハルタ……あのよ、」
「……悪いけど、今は話しかけてこないで」
チャラにしたはずだ。分かってる。分かってはいる。
もう怒っていない。彼らが反省していることだって、ハルタは十分知っているのだ。
けれど、あのリサがあんな状態で。悔しくて、苛立たしくて、悲しくて。縋るようなその視線に更に苛立って、悔しくて、悔しくて、辛くて。
視界に入る誰もに八つ当たりをしてしまいたくなるのだ。
その数分後、戻った自室でこの上ない罪悪感に苛まれることになるのだとしても。
心なしか肩を落として去っていくハルタの背を見送り、今にも自殺しそうな顔を俯かせる兄弟たちを見回して。
また皆で馬鹿やって笑い合いたい――簡単に口に出す事が出来なくなってしまったその願いを胸に、彼らの家族は深い溜息をついた。