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数時間ぶりに甲板へと出てきたリサは、堆く積み上げられた死屍累々を一瞥して父である白ひげの元へと足を進めた。何があったのか、なんて尋ねるつもりはない。父脇にずらりと並ぶ隊長たちの中に見える自隊長の晴れ晴れとした顔を見れば、ここで何があったかなど容易に推測出来た。

「おいおい、大丈夫かァ?」

うっわ、痛そー……
黙れサッチ
はいすみません黙ります

神妙な面持ちで立つイゾウと、こめかみに銃口を押し当てられ蒼白になるサッチのやり取りを尻目に、リサは白ひげへ一歩、また一歩と歩み寄る。ただの捻挫だと診断された足首は未だ熱を帯びていて、動かすたびにズキズキと痛覚を刺激してきた。言ってしまえば全身がズキズキと痛むのだが、体重を支えるそこが一番痛いように感じる。本当にただの捻挫か?などと首を傾げたくなるほどの痛みで進む速度は格段に遅く、また重心を移動させるたびに痛みに顔を歪めた。それでも口に出さないのは、もうただの意地だ。痛いなどと絶対に言ってやるものか。

そんなリサの考えなど、リサと付き合いの長いハルタは勿論、同じ年月だけ寝食を共にしている家族にはお見通しだ。だからこそ彼らは意地っ張りなリサに呆れると同時に、意地を張らざるを得ない状況にさせてしまったことを悔いてもいた。そんな彼らの視線は自然とその原因たる死屍累々へと向かい、未だ痛みと格闘し呻き声を上げる様を見て静かに目を伏せた。
言いたいことは山ほどある。どれだけ罵倒してもし足りないほどには、彼らとて怒りを持て余しているのだから。

「辛いか」

目の前に立った娘に父がかけた第一声。
感情の見えない表情で白ひげを見上げたリサは一度瞬きをし、ゆっくりとした動作で頭を下げた。

「………ごめん」

小さな声は波の音に掻き消されることなく静かに甲板に広がった。
リィシャを責めるでもなく、誤解で怪我を負わせた兄弟たちを責めるでもなく述べた謝罪の言葉に、白ひげは僅かに眉根を寄せ耐えるかのように目を伏せた後、嘆息と共に口を開いた。

「――ゆっくり休め」

小さく頷いたリサはそれ以上何も言わず、また誰かに視線を向けることもなく船室へと足を進めた。
歩くたびに痛む足に顔を歪めながら――もしかしたらそれ以外の理由もあったのかもしれない――去っていくリサの背を見つめ、マルコは嘆息した。

「謝るなってのにね」
「……あぁ」

隣に立つハルタに同調して肯けば、隣からも溜息が零れてくる。
いっそ責めてくれれば良かった――そんなことを考えた狡い自分に舌を打ち、マルコは兄弟たちで作られた大きな山を蹴り飛ばした。あちこちから呻き声が聞こえるが知ったことではない。

「――、……」

何か文句の一つでも言ってやりたかったが、口を開いてもどんな言葉も喉につかえて出てこない。そもそも自分の所為でもあるのだ。自分が兄弟たちを責めるなど間違ってる――そう考えたマルコは結局何も言わずに彼らに背を向け、先ほどリサが消えた扉へと向かった。

何も言ってもらえない――それが一番堪えるということに気付いていない。気付いてももらえない。痛みに顔を歪めながら、甲板に座り込んだ彼らは項垂れ唇を噛み締めた。あちこちで訴える身体の痛みが自分たちの犯した間違いを否応なく突き付けてくる。

心も身体も痛くて堪らない。後悔してもし足りない。
苦しくて辛くて痛くて、痛みから逃げるように歯を食い縛ると身体の痛みがズキズキと訴えてくる。

あぁ、畜生。

「……ッ、カヤロォ……」

食い縛った歯の隙間から絞り出された声は、先程のリサの呟きのように、波の音に掻き消されることなく家族の耳に届いた。

辛くて、
苦しくて、
情けなくて。
痛くて、
痛くて、
痛くて。

誰も何も言えず、ただただ静かに目を伏せた。