06


「じゃあ、今日はここまでだ」

各隊の副隊長以上が出席する定例会議――通称『隊長会議』は、特に何も起こらないままに終了した。
一番隊から十六番隊まで順番に自隊の状況を報告、目に余るクルーがいる隊には厳重注意をして、他に何か船内で変わったことはないかなどを話し合う。
船医であるドクターも出席し、船長でありクルー全員の父親でもある白ひげの容態を簡単に報告し、ナース間に問題がないことも告げれば全てが終わりだ。
いつもと何ら変わることのない、退屈で眠気を誘う定例会議だ。

進行役であるマルコの先の言葉を合図に、各隊の隊長、副隊長たちは「あー肩凝った」だの「眠ィよなぁ」などと笑いながら部屋を後にする。

「ハルタ」

同じようにイゾウと共に部屋を出ようとしていたハルタは、背後からのマルコの呼びかけに振り返った。

「お前ンとこのリサ、どうだい?」
「どうって、何が?」

小首を傾げて聞き返せば、しらばっくれるなと呆れ顔のマルコが僅かに眉根を寄せる。

「何だ、知ってたの」
「あれで気付くなって方が無理だろうさ」

隣でくつくつと笑うイゾウに肩を竦めたハルタは、机に腰をかけてもう一度肩を竦めた。

「まぁ、結構ストレス溜まってるみたいだよ。襲撃来ないかなーってぼやいてた」
「そりゃ仕方ねぇよ。こればっかりはアイツが悪いわけじゃねぇからな」

リィシャの所為でもないけどな。
続けたイゾウがちらりとマルコを見遣る。苦虫を潰したような顔をしていたマルコは、溜息を吐き出しながら首の裏を掻いた。

「マルコの考えも分かるけどさ」
「いい、俺の読みが浅かっただけだ」

むしろ、はっきりとそう言って責めてくれた方が気が楽だ。椅子に腰を下ろしたマルコは再び溜息を零した。

「雇っちまったモンは仕方ねぇ。実際、アイツは他の奴らとも仲良くやってんじゃねぇか。お前さんの読みは間違ってなかったってことだ」

リィシャに関してはな。
イゾウの言葉にハルタも肩を竦める。マルコに至っては机にゴンと頭を打ち付ける始末だ。

「先戻ってこれファイルに挟んどいて」
「はいよ」

会議で配られた資料を受け取った副隊長の背を見送り、三人は顔を見合わせた。

「まぁ、こうなるって何となく分かってたけどね」

だてに隊長を努めていない。自隊のクルーのことなのだから、他の誰よりも理解していて当然だ。
ハルタの言葉にマルコは恨めしげな視線を向けて口を開きかけたが、結局何も言わずに再び机に頭を打ち付けた。
文句の一つでも言ってしまえば良いのに、この男は他人に責任を擦り付けることを良しとしない。

「今のところは大丈夫なんだろう?」

ストレス云々も、リサがリィシャを嫌うのも、自分たちにはどうすることも出来ないことだ。
訓練の時間を増やしてやったって、リサの好きな食べ物をくれてやったって、一時的に機嫌が回復するだけで根本的には何も変わらないのだから。

「まぁね」
「アイツも馬鹿じゃねぇ、自分からリィシャに近付くようなことはしねぇよい」
「そらそうだ。自分からストレス抱えるようなこと、アイツがするわけねぇよ」

くつくつと喉を鳴らすイゾウに、マルコとハルタも顔を見合わせて肩を竦めた。

結局は、何も変わらない。
リサとリィシャの問題であるが故に、自分たちは口を出すことなど出来ない。
困ったことに、当事者である二人にもどうすることも出来ないことなのだけれど。

「可哀想だけど、このままだよ」
「どっちかが船を下りるか、死なねぇ限りはな」
「縁起でもねぇこと言うんじゃねぇよい」

冗談さ。袂から煙管を取り出して笑うイゾウをじとりと見遣り、立ち上がったマルコはハルタへと目を向けた。

「悪ィが、リサのことは頼んだよい」
「話を聞いてやるくらいしか出来ないけどね」

十分だ。
頼んだ、と肩に手を置くマルコに了解と返して、部屋を出ようとしたその時だ。





「大変だ、ハルタ……ッ! リサが……!!」





ハルタの自室でファイルを纏めているはずの副隊長が、預かった資料をその手に握りしめながら血相を変えて飛び込んできたのは。



ストレスを一人で抱え込みながらも必死にリィシャと関わらずにいたリサに、リィシャの方が近付いた。
リサに拒絶されたリィシャが泣き崩れ、理由を問いただしたクルーたちが怒り一斉にリサに詰め寄った。
リィシャに嵌められたと勘違いしたリサが医務室に乗り込んで大勢の前でリィシャを殴り飛ばした。
そんなリサに憤ったクルーたちがリサを囲んで殴る蹴るの暴行を加えていたところを、先に会議室を後にしたラクヨウたちが駆け付けてリサを助け出した。
ドクターに手当てをしてもらい、けれど医務室のベッドを使うことをエリザ以外のナースたちが良しとしなかったこと、クルーたちがリサに危害を加えることを受けて一番安全な牢屋に『保護』した。


矢継ぎ早に受け取った報告に、ハルタたちは頭を抱えた。

何それ!とハルタが叫び、
そりゃ随分と騒動になっちまったな、とイゾウが溜息を零す。

「とにかく行くぞい!」

マルコの言葉を合図に、ハルタたちは部屋を飛び出してそれぞれの目的の場所へと走るのだった。